SWOT分析
SWOT分析とは、組織や事業を取り巻く状況を、「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4つの観点から整理するフレームワークです。
経営戦略、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業など、さまざまな場面で現状を整理し、戦略を検討する際に活用されています。
SWOT分析では、一般に次のように分類します。
・Strengths(強み):内部環境のプラス要因
・Weaknesses(弱み):内部環境のマイナス要因
・Opportunities(機会):外部環境のプラス要因
・Threats(脅威):外部環境のマイナス要因
重要なのは、4つの項目を書き出すことそのものではありません。
自社の内部環境と外部環境を整理し、「どの強みをどの機会に活かすのか」「どの弱みが将来の脅威に対して問題になるのか」といった戦略上の意味を考えることにあります。
SWOT分析の起源
SWOT分析の起源については、「アルバート・ハンフリー(Albert Humphrey)が考案した」と説明されることがあります。
しかし、SWOT分析の成立過程についてはさまざまな説明があり、特定の一人だけを「発案者」と断定することには注意が必要です。
近年の歴史研究では、1960年代にアメリカのStanford Research Institute(SRI)で行われた企業の長期計画に関する研究の中で、SWOTにつながる考え方が発展したことが示されています。
当時、Robert F. Stewartらは、「Satisfactory」「Opportunity」「Fault」「Threat」の頭文字を取ったSOFTという枠組みを用いていました。
その後、「Satisfactory」が「Strength」、「Fault」が「Weakness」へと変わり、現在知られているSWOTという形へ発展したとされています。
そのため、SWOT分析は一人の研究者によって一度に完成されたというより、戦略計画の実務や研究の中で発展してきたフレームワークとして捉える方が適切です。
SWOT分析の4つの要素
SWOT分析では、内部環境と外部環境を区別したうえで、それぞれをプラス要因とマイナス要因に整理します。
① Strengths(強み)
強みとは、自社が保有する経営資源や能力のうち、目的達成や競争上の優位につながる可能性がある要素です。
例えば、次のようなものがあります。
・高い技術力
・強いブランド
・優秀な人材
・顧客との強い関係
・独自のノウハウ
・販売網
・高い顧客満足度
ただし、単に「自社が得意なこと」であれば何でも強みになるわけではありません。
顧客や市場にとって価値があり、競合と比較して優位性を持てるかどうかを見ることが重要です。
② Weaknesses(弱み)
弱みとは、自社の内部にあり、目的達成や競争において不利に働く可能性がある要素です。
例えば、次のようなものがあります。
・人材不足
・知名度が低い
・営業力が弱い
・高いコスト構造
・特定の顧客への依存
・IT化の遅れ
弱みを考える際にも、自社だけを見て判断するのではなく、競合や顧客の期待と比較することが重要です。
③ Opportunities(機会)
機会とは、自社の外部環境にある変化のうち、自社にとって事業機会になり得る要素です。
例えば、次のようなものがあります。
・市場の拡大
・新しい技術の登場
・規制緩和
・顧客ニーズの変化
・競合企業の撤退
・新しい販売チャネルの普及
機会は、単に「世の中で良いことが起きている」という意味ではありません。
その変化を自社が活用できるかどうかという観点から考える必要があります。
④ Threats(脅威)
脅威とは、外部環境の変化のうち、自社の業績や競争力に悪影響を与える可能性がある要素です。
例えば、次のようなものがあります。
・新規競合の参入
・市場の縮小
・原材料価格の上昇
・技術革新による既存商品の陳腐化
・法規制の変更
・顧客ニーズの変化
機会と脅威は固定されたものではありません。
同じ外部環境の変化でも、企業によって機会になる場合と脅威になる場合があります。
強みと弱みは絶対的なものではない
SWOT分析で重要なのは、「強み」「弱み」を絶対的なものとして考えないことです。
例えば、自社の商品価格が競合より安い場合、「低価格」は強みになるかもしれません。
しかし、競合がさらに低価格の商品を投入した場合、その優位性が失われる可能性があります。
また、高価格であることは一見すると弱みに見えても、高品質や高級ブランドを求める顧客に対しては強みになる場合があります。
つまり、強みや弱みは、顧客、市場、競合との関係の中で判断する必要があります。
まず外部環境から考える方法
SWOT分析を行う際、外部環境である「機会」と「脅威」から先に整理する方法があります。
その理由は、自社の強みや弱みの意味が、外部環境によって変わることがあるからです。
例えば、高度な対面営業力を持っていることが大きな強みだった企業でも、顧客の購買行動がオンライン中心へ変化すれば、その強みの価値が変わる可能性があります。
そのため、市場、顧客、競合、技術、法規制などの変化を確認したうえで、自社の強みや弱みを考えることは有効です。
ただし、「必ず外部環境から分析しなければならない」という固定的なルールがあるわけではありません。
目的や状況に応じて進め方を調整することができます。
外部環境分析とPEST分析
SWOT分析で外部環境を考える際には、PEST分析などを補助的に活用することがあります。
PEST分析では、企業を取り巻くマクロ環境を次の4つの観点から整理します。
・Politics(政治・法律・規制など)
・Economy(経済)
・Society(社会)
・Technology(技術)
例えば、人口構造の変化、金利、法規制、AIなどの技術進化が、自社にどのような機会や脅威をもたらすかを考える際に活用できます。
ただし、PEST分析を行えば将来を正確に予測できるわけではありません。
外部環境の変化を体系的に検討するための一つの枠組みとして使うことが重要です。
内部環境を分析する
外部環境を整理したら、自社の内部環境について検討します。
例えば、次のような項目です。
・商品・サービス
・技術力
・人材
・営業力
・ブランド
・資金力
・顧客基盤
・販売チャネル
・組織力
・業務プロセス
このとき、自社の主観だけで「うちは営業力が強い」と判断するのではなく、顧客評価、売上データ、成約率、競合比較などの情報を用いることが重要です。
4C分析を組み合わせる場合
顧客視点から商品やサービスを確認する際には、4Cの考え方を参考にする方法もあります。
Robert F. Lauterbornが1990年に提示した4Cは、企業側の視点である4Pを、より顧客側から捉え直した考え方として知られています。
一般に次の4つで整理されます。
・Consumer wants and needs(顧客の欲求・ニーズ)
・Cost to satisfy(顧客が負担するコスト)
・Convenience to buy(購入の利便性)
・Communication(コミュニケーション)
これらを確認することで、企業側が考える商品の強みと、顧客が実際に感じている価値とのずれに気づける場合があります。
ただし、4CはSWOT分析の内部環境分析に必須の方法ではありません。
分析目的に応じて、3C分析、顧客調査、財務分析、競合比較など、適切な方法を組み合わせることが重要です。
SWOT分析では、同じ事実であっても、それを「強み」と見るか「弱み」と見るかで意見が分かれることがあります。
例えば、「社員数が少ない」という事実を、「意思決定が速い強み」と捉える人もいれば、「営業力や対応力が不足する弱み」と捉える人もいます。
つまり、分析ではデータだけでなく、それをどのように意味づけるかという人の認知や判断も関わります。
日本経営心理士協会では、こうした人の認知、感情、意思決定、組織内の対話などを、経営戦略やマネジメントに活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。
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SWOT分析だけでは戦略にならない
SWOT分析で強み、弱み、機会、脅威を書き出しただけでは、具体的な戦略が決まるわけではありません。
例えば、
強み:「営業担当者の提案力が高い」
機会:「市場が拡大している」
と整理したとしても、それだけでは「何をするのか」は決まりません。
そこから、
「営業力を活かして新しい市場へ参入する」
「営業ノウハウを標準化し、営業人員を増やす」
など、具体的な戦略案へつなげる必要があります。
そのため、SWOT分析は戦略そのものではなく、戦略を考えるための材料を整理するフレームワークとして捉えることが重要です。
クロスSWOT分析とは
SWOTで整理した4要素を組み合わせ、戦略案を考える方法は、日本では「クロスSWOT分析」と呼ばれることがあります。
代表的には、次の4つの組み合わせを検討します。
① 強み × 機会(SO)
自社の強みを活かして、外部環境の機会をどのように利用するか。
② 強み × 脅威(ST)
自社の強みを活かして、外部環境の脅威へどのように対応するか。
③ 弱み × 機会(WO)
外部環境の機会を活かすために、どの弱みを補う必要があるか。
④ 弱み × 脅威(WT)
弱みと脅威が重なることによるリスクを、どのように軽減するか。
こうした内部要因と外部要因を組み合わせて戦略を検討する考え方として、Heinz Weihrichが1982年に発表した「TOWS Matrix」が知られています。
TOWS Matrixでは、SWOTの項目を単に一覧にするのではなく、それらの関係から戦略上の選択肢を検討します。
強み×機会(SO)
SOでは、自社の強みを使って、市場の機会を活かせないかを考えます。
例えば、自社に高いAI開発力があり、企業のAI導入需要が急増している場合、
「既存の技術力を活かして法人向けAIサービスを展開する」
といった戦略案が考えられます。
ただし、「強みと機会があるから必ず参入すべき」という意味ではありません。
投資額、競争状況、収益性なども検討する必要があります。
強み×脅威(ST)
STでは、自社の強みを使って外部環境の脅威にどのように対応するかを考えます。
例えば、低価格の競合企業が市場へ参入した場合でも、自社に高いブランド力や顧客との強い関係があれば、価格競争だけに参加せず、品質やサポートを重視した戦略を取ることが考えられます。
弱み×機会(WO)
WOでは、魅力的な市場機会があるものの、自社の弱みによってそれを十分に活かせない場合に、何を補う必要があるかを考えます。
例えば、オンライン市場が成長している一方、自社にWebマーケティングの知識が不足している場合、
「専門人材を採用する」
「外部企業と提携する」
「社内人材を育成する」
といった戦略案が考えられます。
弱み×脅威(WT)
WTでは、自社の弱みと外部環境の脅威が重なることによるリスクを考えます。
例えば、自社が一社の大口顧客に売上を依存しており、その業界全体が縮小している場合には、大きな経営リスクになる可能性があります。
その場合、新しい顧客層を開拓する、事業ポートフォリオを見直すなどの対応が考えられます。
SWOT分析では項目を増やしすぎない
SWOT分析では、「思いつくものをできるだけ多く出した方がよい」と考えられることがあります。
しかし、項目が増えすぎると、どれが重要なのか分からなくなることがあります。
実際、SWOT分析の活用に関する研究でも、長い項目リストを作るだけで、優先順位づけやその後の戦略形成に十分活用されない問題が指摘されています。
そのため、項目を列挙した後に、
・経営への影響は大きいか
・実際のデータで裏づけられているか
・競争上重要か
・今後変化する可能性が高いか
などを確認し、重要な項目に絞り込むことが有効です。
主観だけでSWOTを作らない
SWOT分析は簡単に作れるため、経営者や担当者の印象だけで作られてしまうことがあります。
例えば、経営者が「当社の強みは品質です」と考えていても、顧客が品質を競合と同程度だと評価しているのであれば、それを競争上の強みと呼べるかは再検討が必要です。
そのため、可能であれば、
・顧客調査
・販売データ
・財務データ
・競合比較
・社員へのヒアリング
・市場調査
など、複数の情報をもとに整理することが重要です。
社員を参加させれば必ず正確になるわけではない
さまざまな立場の社員から意見を集めることで、経営陣だけでは見えない情報を得られる場合があります。
営業は顧客の変化を知っているかもしれませんし、現場社員は業務上の問題をよく知っているかもしれません。
一方で、参加者が多ければ自動的に正確な分析になるわけではありません。
声の大きい人の意見に引っ張られたり、上司の意見に社員が合わせたりする可能性もあります。
そのため、意見と事実を区別し、必要に応じてデータで確認することが重要です。
SWOT分析は一度作って終わりではない
市場や競合、技術、法律、顧客ニーズは変化します。
そのため、ある時点では強みだったものが、数年後には強みではなくなることがあります。
反対に、以前は弱みだったものが、環境の変化によって重要ではなくなる場合もあります。
例えば、店舗網を多く持つことが強みだった企業でも、顧客がオンライン購入へ大きく移行すれば、店舗維持コストが負担になる可能性があります。
そのため、戦略や外部環境が大きく変化した際には、SWOTを見直すことが重要です。
SWOT分析の限界
SWOT分析は分かりやすい一方、いくつか注意点があります。
第一に、項目の分類には主観が入りやすいことです。
同じ要因でも、強みと見る人もいれば弱みと見る人もいます。
第二に、4つに分類しただけでは、要因同士の重要度や因果関係までは分かりません。
第三に、SWOTそのものが「どの戦略を選ぶべきか」という答えを自動的に出してくれるわけではありません。
そのため、SWOT分析の結果をそのまま戦略とせず、財務面、競争優位性、実行可能性、リスクなどを踏まえて戦略案を評価する必要があります。
SWOT分析で重要なのは「何を書くか」より「どう判断するか」
SWOT分析は、4つの枠を埋めれば完成するものではありません。
同じ市場環境を見ても、ある経営者は「大きなチャンスだ」と考え、別の経営者は「危険だから参入すべきではない」と考えることがあります。
また、自社の弱みを率直に認められる組織もあれば、過去の成功体験や社内の力関係によって、都合の悪い情報が分析から外されてしまう組織もあります。
つまり、戦略分析にはデータだけでなく、人の思い込み、感情、価値観、組織内のコミュニケーションも影響します。
例えば、経営者が強く進めたい事業について、社員が「これは脅威が大きい」と感じていても、反対意見を言えなければ、SWOT分析そのものが経営者の考えを正当化するだけの作業になる可能性があります。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、人がどのように情報を捉え、何によって判断が偏り、どのような対話によって異なる意見を引き出せるのかという心理を理解し、経営戦略や意思決定に活かす方法を学びます。
フレームワークを埋めるだけで終わらず、組織の中から本当に重要な情報を引き出し、より質の高い戦略判断につなげたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







