オーセンティック・リーダーシップ
オーセンティック・リーダーシップとは、自分自身の価値観や倫理観を理解し、それに基づいて一貫した行動をとりながら、周囲と率直で信頼のある関係を築いていくリーダーシップの考え方です。
オーセンティック(authentic)とは、「本物の」「真正な」「偽りのない」といった意味を持つ言葉です。
オーセンティック・リーダーシップは、2000年代以降、企業不祥事などを背景に、リーダーの倫理観や自己認識、信頼性を重視する考え方として注目されるようになりました。
その考え方を広く普及させた人物の一人が、米国メドトロニック社の元会長兼CEOであるビル・ジョージ(Bill George)氏です。
ジョージ氏は2003年に原著『Authentic Leadership: Rediscovering the Secrets to Creating Lasting Value』を刊行し、リーダーが自分自身の目的や価値観を理解し、それに基づいて行動することの重要性を説きました。
同書の日本語版は、2004年に『ミッション・リーダーシップ―企業の持続的成長を図る』として刊行されています。
オーセンティック・リーダーシップに求められる5つの特性
ビル・ジョージ氏は、オーセンティックなリーダーに求められる代表的な要素として、次の5つを挙げています。
- [目的]自分が何のためにリーダーシップを発揮するのかを理解する
- [価値観]自分の価値観や倫理観に基づいて行動する
- [真心]情熱と思いやりを持って人を導く
- [人間関係]信頼に基づく継続的な関係を築く
- [自己規律]自分を律し、責任ある行動を続ける
これらは、単に「自分らしく振る舞う」という意味ではありません。
自分が大切にしている価値観を理解し、それが倫理的な基準と一致しているかを考えながら、周囲との関係の中で一貫した行動をとることが重要です。
[目的]
オーセンティックなリーダーにとって重要なのは、「自分は何のためにリーダーとして行動するのか」という目的を理解することです。
役職や権限を得ること自体を目的にするのではなく、組織や顧客、社会にどのような価値を提供したいのかを考え、その目的と日々の行動を結びつけることが求められます。
[価値観]
リーダーがどのような価値観を掲げているかだけでなく、実際の意思決定や行動がその価値観と一致していることが重要です。
特に、短期的な利益や周囲からの圧力によって、倫理的な基準や重要な価値観を簡単に変えてしまわない姿勢が求められます。
ただし、「自分の価値観なら何でも貫けばよい」という意味ではありません。
その価値観が、倫理や社会的責任と整合しているかを考えることも重要です。
[真心]
ビル・ジョージ氏は、リーダーが単に論理や権限によって人を動かすのではなく、人への関心や思いやりを持って関わることを重視しています。
部下や同僚を単なる成果を生み出すための手段として扱うのではなく、一人の人間として関心を持ち、相手の立場や感情を理解しようとすることが、信頼関係を築くうえで重要です。
[人間関係]
オーセンティック・リーダーシップでは、リーダーと周囲の人との間に、信頼に基づく関係を築くことが重視されます。
そのためには、自分の考えを一方的に伝えるのではなく、相手の意見にも耳を傾け、必要に応じて自分とは異なる意見を受け入れることが重要です。
また、率直にコミュニケーションを取ることも重要ですが、すべての感情や情報を無制限に開示するという意味ではありません。
相手や状況に配慮しながら、自分の考えや意図を誠実に伝えることが求められます。
[自己規律]
自分が掲げた価値観や目標に基づいて行動し続けるためには、自己規律が必要です。
忙しいときや強いプレッシャーがかかったときでも、自分の言動に責任を持ち、一貫性を保つことが重要です。
また、自分の行動を振り返り、必要に応じて改善していく姿勢も求められます。
リーダーシップでは、自分自身の価値観を理解することに加え、部下がどのように感じ、何によって信頼や意欲が生まれるのかを理解することも重要です。
日本経営心理士協会では、こうした人の感情や価値観、信頼関係、モチベーションなどの心理を、リーダーシップやマネジメントに活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。
学術研究におけるオーセンティック・リーダーシップの4つの要素
オーセンティック・リーダーシップは、ビル・ジョージ氏だけによって作られた理論ではありません。
その後、Fred Luthans、Bruce Avolio、William Gardner、Fred Walumbwaらによって学術的な理論化と研究が進められました。
現在の研究では、オーセンティック・リーダーシップは主に次の4つの要素から説明されます。
①自己認識(Self-awareness)
自分の強みや弱み、価値観、感情、行動の特徴などを理解し、自分の行動が周囲にどのような影響を与えているかを認識することです。
②内在化された道徳観(Internalized Moral Perspective)
周囲からの圧力や目先の利益だけに流されるのではなく、自分の中にある倫理的・道徳的基準に基づいて意思決定し、行動することです。
③バランスの取れた情報処理(Balanced Processing)
自分に都合のよい情報だけを見るのではなく、自分とは異なる意見や反対意見も含めて情報を検討し、そのうえで判断することです。
④関係の透明性(Relational Transparency)
自分を必要以上に取り繕うのではなく、相手や状況に配慮しながら、自分の考えや意図を率直に伝えることです。
この4つを見ると、オーセンティック・リーダーシップは単に「自分らしく振る舞うリーダーシップ」ではないことが分かります。
自分自身を理解し、倫理的な基準に基づいて行動し、異なる意見にも耳を傾けながら、周囲と誠実な関係を築くことが重要です。
オーセンティック・リーダーシップの行動と振る舞い
多くの企業では、企業理念や行動指針、倫理規定などを掲げています。
しかし、重要なのは、それらを掲げることだけではなく、実際の経営やマネジメントの場面で行動として示されているかどうかです。
オーセンティック・リーダーシップを実践するためには、自分の価値観を明確にするだけでなく、その価値観と実際の行動が一致しているかを継続的に振り返ることが重要です。
自分の価値観と行動は一致しているか?
仕事では、周囲からの評価や短期的な利益、組織内の力関係などによって、自分の判断が影響を受けることがあります。
そのような状況でも、「自分や組織が大切にすべきことは何か」「この判断は倫理的に問題がないか」を考えることが重要です。
オーセンティック・リーダーシップでは、掲げている価値観と実際の行動に一貫性を持たせることが重視されます。
自分と異なる意見にも耳を傾けているか?
オーセンティックなリーダーとは、自分の考えを強く貫くだけのリーダーではありません。
重要な意思決定を行う際には、自分とは異なる意見や、自分にとって耳の痛い情報にも向き合うことが重要です。
自分に都合のよい情報だけを集めるのではなく、複数の視点から情報を検討することで、より偏りの少ない判断につなげることができます。
率直に接しているか?
オーセンティック・リーダーシップでは、周囲との関係において、自分を必要以上に取り繕わないことが重視されます。
例えば、自分が判断を誤った場合にはそれを認めたり、分からないことについては「分からない」と伝えたりすることもあります。
ただし、自分の弱みや感情をすべてさらけ出せばよいという意味ではありません。
相手との関係や状況を考えながら、適切な範囲で率直に自分を示すことが重要です。
自分自身を理解できているか?
オーセンティック・リーダーシップでは、自己認識が重要な要素とされています。
自分の強みだけでなく、弱みや思考の癖、感情的になりやすい場面などを理解することが重要です。
また、自分自身が考えている自分の姿と、周囲から見えている姿が同じとは限りません。
部下や同僚などからフィードバックを受け、自分の行動が周囲にどのような影響を与えているかを確認することも、自己認識を深める方法の一つです。
オーセンティック・リーダーシップは「自分らしさ」だけではない
オーセンティック・リーダーシップは、「ありのままの自分でいればよい」という考え方ではありません。
自分の価値観を理解することは重要ですが、その価値観が倫理的・道徳的に適切であることや、自分とは異なる意見を検討することも求められます。
また、自分の本音をすべて表に出すことがオーセンティックなのではなく、周囲との信頼関係を大切にしながら、誠実で一貫したコミュニケーションを行うことが重要です。
つまり、オーセンティック・リーダーシップとは、「自分らしさ」だけではなく、倫理観、自己認識、多様な意見への開放性、周囲との信頼関係を組み合わせながら発揮するリーダーシップだと考えることができます。
オーセンティック・リーダーシップを実践するために
オーセンティック・リーダーシップは、生まれつき備わった性格だけで決まるものではなく、経験や自己理解、周囲からのフィードバックなどを通じて発達していくものとして研究されています。
そのため、リーダーは「自分はどのような価値観を大切にしているのか」「どのような場面で判断が偏りやすいのか」「周囲から自分はどのように見えているのか」などを継続的に振り返ることが重要です。
また、自分の考えに反対する意見も聞く、間違いがあれば認める、言葉と行動を一致させるといった日々の行動の積み重ねが、周囲からの信頼につながります。
そして、リーダーが自分を理解することと同じように重要なのが、部下や周囲の人の心理を理解することです。
自分では誠実に伝えたつもりでも、相手がどのように受け取るかによって、信頼や納得感は変わります。また、同じ言葉をかけても、相手の価値観や感情によって反応は異なります。
そのため、オーセンティックなリーダーシップを実際のマネジメントで発揮するには、自己理解だけでなく、人の感情、価値観、モチベーション、コミュニケーションの心理まで理解することが重要です。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、こうした人がどのように感じ、考え、行動するのかという心理を、リーダーシップ・マネジメント・人材育成などに活かす方法を学びます。
自分自身のあり方を整えるだけでなく、相手の心を理解し、信頼関係を築きながら人を動かす力を高めたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







