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ピグマリオン効果

ピグマリオン効果とは、周囲から期待を受けることによって、その人の行動や成果に良い変化が生じる可能性を示す心理学上の考え方です。

教育心理学の分野で知られるようになった概念で、教師が生徒に対して持つ期待が、その後の生徒の成績や行動に影響する可能性があることを示した研究が有名です。

「教師期待効果(teacher expectancy effect)」などと呼ばれることもあります。

ただし、「期待すれば必ず相手の能力が伸びる」という意味ではありません。

期待そのものが直接成果を生み出すというより、期待を持つことで接し方や声のかけ方、与える機会などが変わり、それが相手の行動や成長に影響する可能性があると考えることが重要です。

 

ピグマリオン効果の由来

「ピグマリオン」という名称は、ギリシャ神話に登場する彫刻家ピグマリオンに由来します。

ピグマリオンは、自ら作った女性像を深く愛するようになり、その願いによって彫像が人間になったという物語で知られています。

この物語になぞらえて、「強い期待が相手の変化につながる」という意味で、ピグマリオン効果という名称が使われるようになりました。

 

ロゼンタールとジェイコブソンの研究

ピグマリオン効果を広く知られるきっかけとなったのが、心理学者ロバート・ローゼンタール(Robert Rosenthal)と学校長レノア・ジェイコブソン(Lenore Jacobson)による研究です。

1965年、アメリカの小学校で行われた実験では、生徒たちに知能検査を実施した後、教師に対して「今後、知的能力が大きく伸びる可能性がある生徒」として一部の生徒の名前が伝えられました。

しかし、その生徒たちは実際には検査結果によって選ばれたわけではなく、無作為に選ばれていました。

その後の検査では、特に一部の学年において、教師から「伸びる」と期待された生徒の知能検査得点により大きな伸びが見られました。

この研究は1968年に『Pygmalion in the Classroom』として出版され、教師の期待が生徒に影響する可能性を示す研究として広く知られるようになりました。

 

なぜ期待によって行動が変わるのか

ピグマリオン効果を考えるうえで重要なのは、「期待するだけで相手の能力が上がる」と考えないことです。

相手に対して期待を持つと、その人への接し方が変わることがあります。

例えば、上司が「この部下は伸びる」と考えている場合、次のような行動が増える可能性があります。

・より丁寧に説明する
・難しい仕事を任せる
・意見を聞く機会を増やす
・失敗してもすぐに見放さず支援する
・成長した点を具体的に伝える
・より多くのフィードバックを行う

こうした日々の関わりの違いによって、本人が挑戦する機会や学習する機会が増え、結果として成長につながる可能性があります。

つまり、期待が成果に影響するとすれば、その背景には期待によって生じる「周囲の行動の変化」があると考えることができます。

 

職場におけるピグマリオン効果

ピグマリオン効果は、学校教育だけでなく、職場のマネジメントや人材育成を考える際にも応用されることがあります。

例えば、上司が部下に対して「この人ならできる」と期待している場合、その期待が言葉や行動に表れることがあります。

責任のある仕事を任せたり、本人の意見を聞いたり、成長に必要なフィードバックを行ったりすることで、部下が能力を発揮しやすくなる場合があります。

一方で、「この人には難しいだろう」と最初から考えてしまうと、重要な仕事を任せなかったり、十分な指導を行わなかったりする可能性があります。

その結果、本人が経験を積む機会を失い、本来持っている能力を十分に発揮できなくなることも考えられます。

 

人材育成では、「期待しています」と伝えることだけでなく、その期待が日々の関わり方にどのように表れているかが重要です。

同じ言葉をかけても、相手が「信頼されている」と感じる場合もあれば、「プレッシャーをかけられている」と感じる場合もあります。

日本経営心理士協会では、こうした人の感情やモチベーション、価値の感じ方、コミュニケーションの心理を、マネジメントや人材育成に活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。

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ピグマリオン効果を人材育成に活かす方法

ピグマリオン効果を人材育成に活かす際には、単に相手を褒め続けるのではなく、期待を具体的な行動として示すことが重要です。

 

▽本人の可能性を決めつけない

部下の過去の実績だけを見て、「この人には無理だ」と早い段階で判断すると、成長の機会を与えなくなる可能性があります。

現在できることだけでなく、「経験を積めばどこまでできるようになるか」という視点で見ることが重要です。

ただし、本人の能力や経験を無視して、過度に難しい仕事を任せればよいわけではありません。

現在の能力より少し高いレベルの課題を設定し、必要な支援を行うことが重要です。

 

▽期待している理由を具体的に伝える

「期待しているよ」とだけ伝えても、本人はなぜ期待されているのか分からない場合があります。

例えば、「前回の提案では顧客の話を丁寧に聞けていたから、今回はもう少し難しい案件を任せたい」というように、期待の根拠を具体的に伝える方法があります。

具体的な根拠があることで、本人も自分の強みや成長した部分を理解しやすくなります。

 

▽成長につながる機会を与える

期待している人に対しては、実際に成長できる仕事や役割を任せることが重要です。

例えば、新しい顧客を担当してもらう、会議で発表してもらう、後輩の指導を任せるなど、本人の能力に応じて少しずつ責任のある仕事を経験してもらいます。

ただし、仕事を任せるだけでなく、必要に応じて助言や支援を行うことも重要です。

 

▽具体的なフィードバックを行う

成果が出たときには、「よくできた」と伝えるだけでなく、何が良かったのかを具体的に伝えると、本人は自分の強みを理解しやすくなります。

例えば、「お客様の話を途中で遮らず、最後まで聞いていたから、本当の課題を把握できたね」と伝える方法があります。

また、改善すべき点がある場合も、人格を否定するのではなく、行動について具体的に伝えることが重要です。

 

期待がプレッシャーになる場合もある

「期待することは良いことだから、できるだけ強く期待すればよい」と考えるのは適切ではありません。

期待の伝え方によっては、本人が大きなプレッシャーを感じる場合があります。

例えば、「君なら絶対できる」「失敗するとは思っていない」と強く伝えると、本人が「失敗してはいけない」と感じる可能性があります。

その結果、挑戦を避けたり、不安が強くなったりすることもあります。

そのため、「期待している」と伝える際には、結果だけではなく、挑戦や成長そのものを支える姿勢が重要です。

例えば、「失敗しても一緒に振り返ればいいから、まずやってみよう」と伝えることで、期待と同時に安心感を与えることができます。

 

ゴーレム効果とは

ピグマリオン効果と対比して紹介されることがあるのが「ゴーレム効果」です。

一般に、周囲から低い期待を向けられることで、その人のパフォーマンスが低下する可能性を表す言葉として使われます。

例えば、上司が「この部下は仕事ができない」と考えることで、簡単な仕事しか任せなくなったり、十分な指導やフィードバックをしなくなったりする場合があります。

その結果、本人が成長する機会を得にくくなり、実際に成果が出にくくなるという悪循環が生じる可能性があります。

ただし、ピグマリオン効果と同様に、「低く期待すれば必ず能力が下がる」という単純な因果関係ではありません。

重要なのは、上司が持つ先入観や期待が、無意識のうちに接し方や仕事の与え方に影響する可能性があることです。

 

ピグマリオン効果の研究には注意点もある

ロゼンタールとジェイコブソンの研究は、教育心理学に大きな影響を与えました。

一方で、その後の研究では、教師期待効果の大きさは状況によって異なり、常に大きな効果が確認されるわけではないことも示されています。

年齢、対象者の特徴、教師の行動、期待が形成された理由などによって、影響の大きさは変わる可能性があります。

そのため、「期待するだけで成績が上がる」「部下を信じれば必ず成果が出る」という単純な法則として扱わないことが重要です。

期待は、人の行動に影響するさまざまな要因の一つと考えるのが適切です。

 

人材育成では「期待」よりも、その期待をどう伝えるかが重要

ピグマリオン効果から学べる重要な点は、上司や教師が相手についてどのように考えているかが、日々の関わり方に表れる可能性があるということです。

「この人には可能性がある」と考えることで、より多くの機会を与えたり、丁寧に指導したり、失敗したときにも成長を支援したりするようになる場合があります。

一方で、期待を持っているつもりでも、強いプレッシャーとして伝われば、相手の意欲を高めるとは限りません。

つまり、人材育成で重要なのは「期待を持つこと」だけではなく、その期待が相手にどのように受け取られるかまで考えることです。

同じ「期待している」という言葉でも、信頼や可能性を感じる人もいれば、「結果を出さなければならない」と負担を感じる人もいます。

日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、人の感情やモチベーション、相手が言葉をどのように受け取るのかといった心理を理解し、マネジメントや人材育成に活かす方法を学びます。

部下に期待を伝えるだけで終わらせず、その期待を成長や主体的な行動につなげる関わり方を身につけたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

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この記事の執筆者

藤田 耕司(ふじた こうじ)

一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー

早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。

       
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