ラポール
ラポール(rapport)とは、相手との間に信頼や安心感があり、互いに理解し合いやすい関係が築かれている状態を表す言葉です。
「rapport」はフランス語に由来し、「関係」「つながり」といった意味を持ちます。
心理学やカウンセリング、コーチング、営業、医療、教育など、人と人との関係が重要になるさまざまな場面で使われています。
ラポールが形成されていると、相手が話しやすくなったり、こちらの話を受け入れやすくなったりする場合があります。
ただし、ラポールを築けば必ず相手が本音を話す、必ず説得できる、というものではありません。
あくまで、相手とのコミュニケーションを行いやすくするための土台の一つと考えることが適切です。
ラポールが重要な理由
人は、安心できない相手や信頼できない相手に対しては、自分の考えや悩みを十分に話さないことがあります。
反対に、「この人なら話しても大丈夫そうだ」「自分のことを理解しようとしてくれている」と感じると、より率直に話しやすくなる場合があります。
そのため、営業やカウンセリング、マネジメントなどでは、相手から情報を聞き出すことだけを急ぐのではなく、まず相手が安心して話せる関係をつくることが重要になります。
例えば、部下との面談でも、普段ほとんど話を聞いてくれない上司から突然「何でも本音で話してほしい」と言われても、部下がすぐに本音を話せるとは限りません。
日頃のコミュニケーションの積み重ねによって、「話を聞いてもらえる」「否定されない」と感じられる関係ができていることが重要です。
ラポールを築くために重要なこと
ラポールを築くための方法として、さまざまなコミュニケーション技法が紹介されています。
ただし、技法を機械的に使えばラポールが形成されるわけではありません。
基本となるのは、相手を理解しようとする姿勢です。
▽相手の話を丁寧に聞く
ラポールを築くうえでは、相手の話を途中で遮らず、何を伝えようとしているのかを理解しようとすることが重要です。
自分の意見やアドバイスをすぐに伝えるのではなく、まず相手の考えや感情を確認します。
例えば、「それは大変でしたね」「そのとき、どのように感じましたか」などと反応することで、相手は自分の話を受け止めてもらえていると感じやすくなります。
▽相手の言葉を確認する
相手の話を聞きながら、「つまり、○○ということでしょうか」と確認する方法があります。
これによって、話の内容を正しく理解できているか確認できるだけでなく、相手に「きちんと話を聞いている」ということが伝わりやすくなります。
ただし、相手の言葉をそのまま繰り返せばよいわけではありません。
機械的に反復すると、不自然な印象を与えることがあります。
▽相手のペースに配慮する
人によって、話す速さ、考える時間、会話のテンポは異なります。
こちらが急いで質問を続けると、相手が考える時間を十分に取れないことがあります。
相手のペースを見ながら、沈黙も含めて会話を進めることが重要です。
▽相手を否定しすぎない
相手が話した内容に対して、すぐに「それは間違っている」「考え方がおかしい」と否定すると、その後の会話が続きにくくなる場合があります。
意見が異なる場合でも、まず「そう考えた理由は何ですか」などと質問し、背景を理解してから自分の考えを伝える方が、対話を続けやすくなります。
ラポールとミラーリング
ラポールを築く技法としてよく紹介されるものに「ミラーリング」があります。
ミラーリングとは、相手の姿勢、表情、動作、話すテンポなどに自然に合わせるコミュニケーション方法です。
人は、自分と似た行動や話し方をする相手に親近感を持つ場合があります。
そのため、相手の会話のテンポや雰囲気に自然に合わせることが、コミュニケーションを円滑にする一助になることがあります。
ただし、相手が足を組んだらすぐ同じように足を組む、といった形で機械的に真似をすると、不自然に感じられる可能性があります。
ミラーリングは「動作をコピーするテクニック」というより、相手のペースや雰囲気に自然に合わせることが重要です。
ラポールを築くためには、表面的な会話のテクニックだけでなく、「この人は自分を理解しようとしている」と相手が感じられることが重要です。
そのためには、相手の感情や価値観、話し方、反応などを理解しながら関わる必要があります。
日本経営心理士協会では、こうした人の感情や価値観、信頼関係、コミュニケーションの心理を、営業・マネジメント・人材育成などに活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。
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ラポールと心理的安全性の違い
ラポールと関連する言葉として、「心理的安全性」があります。
両者は似ている部分がありますが、同じ概念ではありません。
ラポールは、主に人と人との間に信頼や安心感のある関係が築かれている状態を指します。
一方、心理的安全性は、チームや組織の中で、質問や意見、失敗などを伝えても、対人関係上の大きなリスクを負わないと感じられる状態を指します。
そのため、上司と部下の間に良いラポールが形成されていても、チーム全体として心理的安全性が高いとは限りません。
反対に、チーム全体として意見を言いやすい環境があっても、特定の2人の関係では十分なラポールが形成されていない場合もあります。
両者は関連することがありますが、区別して考える必要があります。
ラポールとキャリブレーション
コミュニケーションの分野では、「キャリブレーション」という言葉も使われることがあります。
キャリブレーションとは、相手の表情や姿勢、声のトーン、呼吸などの変化を観察し、相手の状態を推測することを指します。
例えば、ある話題になったときに相手の表情が硬くなった場合、「この話題には何か抵抗があるのかもしれない」と考えることができます。
ただし、表情や姿勢だけから相手の気持ちを正確に読み取れるわけではありません。
腕を組んでいるからといって、必ず「警戒している」とは限りません。
単に寒かったり、楽な姿勢を取っていたりする場合もあります。
そのため、非言語的な反応は「相手の心理を断定する材料」ではなく、「何か変化があったかもしれないと気づくための手がかり」として使うことが重要です。
必要であれば、「今の話について、何か気になることがありますか」などと確認する方が適切です。
VAKで相手をタイプ分けしすぎない
ラポールやコミュニケーションの説明では、「VAK」という考え方が紹介されることがあります。
VAKとは、Visual(視覚)、Auditory(聴覚)、Kinesthetic(身体感覚)の頭文字を取った言葉です。
例えば、「視覚優位の人」「聴覚優位の人」「身体感覚優位の人」というように分類し、それぞれに合わせた言葉を使う方法が紹介されることがあります。
しかし、人を固定的に「視覚タイプ」「聴覚タイプ」などに分類し、そのタイプに合わせて教えれば学習効果が高まるという考え方については、十分な科学的根拠が確立しているとはいえません。
人は状況や内容によって、視覚情報、聴覚情報、身体感覚などを組み合わせて情報を処理します。
そのため、「この人は視覚タイプだから、この伝え方しか合わない」というように固定的に判断することは避けた方がよいでしょう。
相手がどのような説明に反応しているかを実際の会話の中で確認しながら、伝え方を調整することが重要です。
営業におけるラポール
営業では、商品の説明を始める前に、顧客との関係を築くことが重要です。
顧客が営業担当者を信頼できないと感じている場合、どれだけ商品のメリットを説明しても、その情報自体を疑って受け取ることがあります。
そのため、まず顧客の話を聞き、何に困っているのか、何を重視しているのかを理解しようとすることが重要です。
ただし、ラポールは「相手を説得しやすくするための操作テクニック」ではありません。
顧客との信頼関係を築いたうえで、その人に本当に必要な商品やサービスを提案するための土台として考えることが重要です。
マネジメントにおけるラポール
上司と部下の関係でも、ラポールは重要です。
上司が部下に対して、「何かあれば相談してほしい」と伝えていても、普段から話を否定したり、相談した内容について責めたりしていれば、部下は相談しにくくなります。
一方で、普段から話を聞き、困ったときに支援してもらえると感じていれば、問題が小さい段階で相談しやすくなります。
その結果、問題の早期発見や、部下の成長支援につながる場合があります。
ただし、部下との関係が良いことと、必要な指導や評価を行わないことは別です。
信頼関係を築きながら、必要な場合には明確なフィードバックを行うことも重要です。
ラポールを築くときに注意したいこと
ラポールを築くことは重要ですが、「相手に好かれること」だけを目的にしないことも大切です。
相手の意見に何でも同意したり、本当は思っていないことを言ったりすると、一時的には関係が良く見えても、長期的な信頼につながらない場合があります。
また、ミラーリングなどの技法も、相手を操作するために使うと、不自然さや違和感を与える可能性があります。
重要なのは、テクニックを使うことそのものではなく、相手を理解しようとし、誠実にコミュニケーションを取ることです。
ラポールは信頼関係を築くための土台
ラポールは、営業、マネジメント、教育、カウンセリングなど、人と関わるさまざまな場面で重要な考え方です。
しかし、相手の姿勢を真似したり、決まった質問をしたりするだけで信頼関係が生まれるわけではありません。
相手が何を考え、何を感じ、何を大切にしているのかを理解しようとする姿勢が基本になります。
同じ言葉をかけても、相手との関係性や相手の価値観によって、受け止め方は異なります。
そのため、信頼関係を築くには、表面的なコミュニケーション技法だけでなく、人の感情や価値観、反応の背景にある心理を理解することが重要です。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、人がどのようなときに信頼を感じ、何によって心を開き、どのような伝え方や質問によって関係性が変わるのかといった心理を、営業・マネジメント・人材育成などの実践に活かす方法を学びます。
相手との関係を単なる会話のテクニックでつくるのではなく、相手の心理を理解したうえで、より深い信頼関係を築いていきたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







