確証バイアス
確証バイアスとは、自分がすでに持っている考えや仮説を支持する情報に注目しやすく、それに反する情報を軽視したり、見落としたりする傾向を指します。
英語では「confirmation bias」と呼ばれます。
例えば、「この商品は必ず売れる」と考えている人が市場調査をすると、その予想を支持する顧客の声ばかりに注目し、否定的な意見を「少数意見だから」と軽視してしまうことがあります。
本人は客観的に情報を集めているつもりでも、自分の考えに合う情報と合わない情報を、同じように扱えているとは限りません。
確証バイアスは、経営判断、採用、人事評価、営業、投資、日常生活など、さまざまな意思決定に影響する可能性があります。
確証バイアスに関する研究
確証バイアスに関する代表的な研究者の一人が、イギリスの心理学者ピーター・C・ウェイソン(Peter C. Wason)です。
ウェイソンは1960年代に、人が仮説を検証するとき、自分の仮説を否定する情報よりも、支持する情報を探しやすい傾向について研究しました。
代表的な研究の一つとして知られているのが、「2・4・6課題」です。
参加者には「2、4、6」という3つの数字が提示され、この数字の並びに当てはまるルールを推測するよう求められます。
そして、自分が考えたルールが正しいかどうかを確かめるために、別の3つの数字を提示して検証します。
例えば、「2ずつ増える偶数」という仮説を考えた人は、「8、10、12」など、自分の仮説に当てはまる数字を提示しやすくなります。
しかし、その数字がルールに当てはまったとしても、「2ずつ増える偶数」という仮説が正しいとは限りません。
本当のルールが「前の数字より大きい数字が続く」であれば、「8、10、12」も当てはまるからです。
仮説をより厳密に検証するには、「自分の仮説が間違っているとしたら、どのような数字ならそれを確認できるか」という視点も必要になります。
確証バイアスは情報収集だけでなく解釈にも影響する
確証バイアスは、自分に都合のよい情報だけを探すことに限りません。
同じ情報を見ても、自分の既存の考えに合うように解釈してしまうことがあります。
例えば、ある社員について「仕事が雑だ」と考えている上司がいるとします。
その社員が一度ミスをすると、「やはりこの人は仕事が雑だ」と強く印象に残るかもしれません。
一方、その社員が丁寧な仕事をした場合には、「今回はたまたまだ」と考えて、あまり重視しない可能性があります。
このように、自分の考えと一致する出来事を重く受け止め、一致しない出来事を例外として扱うことがあります。
経営判断における確証バイアス
経営者が新規事業を始める際にも、確証バイアスが影響することがあります。
「この事業は成功する」と強く考えていると、成功を支持する情報に目が向きやすくなります。
例えば、次のような情報です。
・市場が成長しているというデータ
・商品を高く評価した顧客の声
・競合が成功した事例
・自分の考えに賛成する社員の意見
一方で、次のような情報を十分に検討しなくなる可能性があります。
・市場成長が鈍化しているデータ
・商品を購入しなかった顧客の理由
・競合の撤退事例
・自社の弱みを指摘する社員の意見
その結果、事業のリスクを過小評価する可能性があります。
「成功したい」という気持ちが判断に影響することもある
重要な意思決定ほど、感情が関わります。
新規事業を成功させたい、採用した人に活躍してほしい、自分の提案が正しかったと思いたい、といった気持ちは自然なものです。
しかし、その気持ちが強いほど、自分にとって望ましい情報を受け入れやすくなる場合があります。
そのため、経営判断では「自分は客観的に考えている」と思っているときほど、反対の情報も意識的に確認することが重要です。
採用における確証バイアス
採用面接でも、確証バイアスが影響する可能性があります。
例えば、応募者の第一印象から「この人は優秀そうだ」と感じると、その後の面接で、その印象を裏づける情報に注目しやすくなる場合があります。
応募者が良い回答をすると、「やはり優秀だ」と感じる一方、不十分な回答については「緊張していただけだ」と解釈するかもしれません。
反対に、最初に悪い印象を持った応募者の場合には、同じ回答でも否定的に解釈する可能性があります。
このような影響を減らすためには、採用基準を事前に決め、複数の応募者にできるだけ共通した質問を行い、具体的な事実や行動をもとに評価することが重要です。
確証バイアスで難しいのは、本人が「偏った判断をしている」と自覚しにくいことです。
特に、自分の経験や信念に自信があるほど、反対意見を「分かっていない人の意見」と受け止めてしまう場合があります。
日本経営心理士協会では、こうした人の認知や感情が判断にどのような影響を与えるのかを理解し、経営・マネジメント・営業などに活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。
2015年の開講以来、のべ10,000名以上の方が受講されています。
人事評価における確証バイアス
人事評価でも、上司が部下に対して持っている既存の印象が評価に影響する場合があります。
例えば、「Aさんは主体性がない」と考えている上司は、Aさんが指示を待った場面を強く記憶する一方、自ら提案した場面を十分に評価しない可能性があります。
そうすると、上司の中では「Aさんには主体性がない」という認識がさらに強化されます。
この状態が続けば、Aさんに挑戦的な仕事を任せなくなり、本人が主体性を発揮する機会そのものが減ることも考えられます。
人を評価するときには、印象だけでなく、一定期間の具体的な行動や成果を確認することが重要です。
営業における確証バイアス
営業担当者も、顧客について早い段階で仮説を持つことがあります。
例えば、「この顧客は価格を重視している」と考えると、価格に関する発言ばかりに注意が向き、それ以外のニーズを見落とす可能性があります。
実際には、顧客が最も気にしているのは価格ではなく、導入後のサポートかもしれません。
そのため、営業では仮説を持つこと自体は重要ですが、その仮説が本当に正しいかを質問によって確認する必要があります。
「価格が一番重要ですよね」と確認するよりも、「今回の選定では、どのような点を重視されていますか」と聞く方が、思い込みの影響を減らしやすくなります。
SNSやインターネットでも確証バイアスは起こる
インターネットでは、自分の意見に近い情報を簡単に探すことができます。
例えば、ある商品について「効果がある」と考えている人が、「商品名 効果あり」と検索すれば、その考えを支持する情報を見つけやすくなります。
一方、「商品名 効果なし」「商品名 問題点」などと検索すれば、異なる情報が出てくる可能性があります。
検索する言葉そのものによって、目にする情報が偏る場合があるということです。
また、SNSでは、自分と似た考えの人をフォローすることによって、同じような意見に繰り返し接することがあります。
その結果、「みんな同じ考えを持っている」と感じる場合がありますが、自分が接している情報が社会全体を代表しているとは限りません。
確証バイアスとデータ分析
数字やデータを使っていれば、必ず客観的な判断ができるとは限りません。
大量のデータの中から、自分の主張を支持する数字だけを選ぶこともできるからです。
例えば、ある施策について、「問い合わせ件数が増えた」という数字だけを見れば成功したように見えるかもしれません。
しかし、成約率、顧客獲得単価、利益率などを見ると、全体としては成果が悪化している可能性もあります。
そのため、最初に「成功と判断する基準は何か」を決め、都合のよい指標だけを後から選ばないことが重要です。
「反対意見を聞けばよい」だけではない
確証バイアスへの対策として、「反対意見を聞くこと」が挙げられます。
これは重要ですが、単に反対する人を会議に入れるだけでは十分ではありません。
経営者が反対意見を言った社員に対して毎回不機嫌になるような組織では、社員は次第に反対意見を言わなくなる可能性があります。
その結果、経営者の考えを支持する情報だけが集まりやすくなります。
重要なのは、「反対意見を言っても問題ない」と感じられる環境をつくることです。
確証バイアスを減らす方法
確証バイアスを完全になくすことは難しいですが、判断への影響を小さくするための方法があります。
▽「自分が間違っているとしたら?」と考える
自分の仮説を証明する情報だけを集めるのではなく、「この仮説が間違っているとすれば、どのような事実があるはずか」と考えます。
例えば、「この新商品は売れる」と考えているなら、「売れないとすれば、どんな理由が考えられるか」を検討します。
▽反証となる情報を意識的に探す
自分の考えと一致する情報だけでなく、反対の情報も探します。
新規事業であれば、成功事例だけでなく撤退事例や失敗事例も確認します。
投資判断であれば、購入する理由だけでなく、購入しない理由も調べます。
▽判断基準を事前に決める
結果を見た後で評価基準を変えると、自分に都合よく解釈しやすくなります。
そのため、「3か月後にこの指標がこの水準に達していれば継続する」など、できるだけ事前に判断基準を決めておく方法があります。
▽第三者の視点を取り入れる
自分が強く関わっている案件ほど、客観的に見ることが難しくなる場合があります。
そこで、その案件への思い入れが比較的少ない人から意見を聞く方法があります。
ただし、第三者の意見が必ず正しいわけではないため、異なる視点を得るために活用することが重要です。
▽事実と解釈を分ける
例えば、「会議でAさんが一度も発言しなかった」は観察できる事実です。
一方、「Aさんにはやる気がない」は、その事実に対する解釈です。
この二つを分けることで、自分の思い込みに気づきやすくなります。
確証バイアスがあるから「直感を使ってはいけない」わけではない
経験豊富な人の直感が、重要な判断材料になることもあります。
長い経験の中で、多くのパターンを学習している場合があるからです。
ただし、経験があるからこそ「以前もこうだったから今回も同じだ」と考え、別の可能性を十分に検討しないこともあります。
そのため、直感を否定するのではなく、「なぜそう感じるのか」「反対の可能性はないか」を確認することが重要です。
確証バイアスと意思決定
人は意思決定のたびに、すべての情報を完全に中立な状態で評価しているわけではありません。
過去の経験、価値観、期待、感情などが、どの情報に注目し、どのように解釈するかに影響することがあります。
例えば、経営者が強く進めたい事業について、部下が反対意見を伝えたとき、「慎重でよい意見だ」と受け止める場合もあれば、「この人は挑戦する気がない」と受け止める場合もあります。
同じ情報でも、その人が持っている前提によって意味づけが変わることがあります。
確証バイアスを知ることは「自分の判断を疑うこと」につながる
確証バイアスから学べる重要なことは、「自分が正しいと思っているときほど、反対の情報を見る必要がある」ということです。
経営者や管理職は、多くの意思決定を行います。
その際、自分の経験や成功体験が判断の助けになる一方、それが強い思い込みにつながることもあります。
「自分の考えを支持する事実は何か」だけでなく、「自分の考えが間違っていることを示す事実は何か」と問い直すことで、判断の偏りに気づきやすくなります。
また、部下や顧客についても、「この人はこういう人だ」と決めつけると、その見方を裏づける行動ばかりが目に入ることがあります。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、こうした認知の偏りや感情が、人の判断や行動にどのような影響を与えるのかを理解し、経営判断・マネジメント・営業などに活かす方法を学びます。
経験や直感を活かしながらも、自分の思い込みに左右されにくい判断や、相手を決めつけない関わり方を身につけたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







