なぜ言葉を変えれば感情も変わるのか - 一般社団法人日本経営心理士協会
経営心理学コラム

2016.4.11なぜ言葉を変えれば感情も変わるのか

経営・ビジネスの成果を上げること。そのための方法をテーマとした書籍やセミナーはたくさんあります。

ただ、書籍やセミナーで学んだことは現場で活かされてはじめて意味を持ちます。こういった学びを現場で活かすことができるかどうか、それは感情の状態が大きな鍵を握ります。

頭では分かっていてもイライラしていたり、余裕がなかったり、面倒くさかったりして、 感情が学びの実践に適した状態ではないと、その学びを経営やビジネスの中で実践することは難しくなります。

学んでいる人はたくさんいる。 でも、その学びによって大きく変化・成長した人は果たしてどれほどいるのでしょうか。そのため、「学び」+「感情のコントロール」の2つが経営・ビジネスの成果を上げるためには重要な要素となります。

感情のコントロールをする上で、発する言葉を変えることは大きな効果をもたらします。

『認知的不協和』という心理学の言葉があります。アメリカの心理学者:レオン・フェスティンガーによって提唱された言葉であり、「矛盾する2つのことを同時に認識した状態」、また「そのときに覚える不快感」を表す言葉です。

脳は認知的不協和を感じた時、自身の態度や行動、思考を変化させて、この不協和を解消しようとします。例えば、イラッとした時に、「よし!」と呟くと、怒りというネガティブな感情を抱いているにもかかわらず、「よし!」というポジティブな言葉を発しているという認知的不協和が生じています。

そこで、脳はこの認知的不協和を解消しようとします。ただ、「よし!」という言葉を発してその言葉を自分の耳で聞いたという事実は変えることができません。

そのため、認知的不協和を解消するために、怒りというネガティブな感情を変えざるを得ません。この方法、はじめは大きな違和感を覚えますが、慣れると感情のコントロールに大きな効果をもたらします。

『感謝の気持ちを持つこと』 優れた業績を残した経営者の本や自己啓発の本、様々な講演、セミナーなどで、このことの重要性を何度も耳にしてきました。

何か良いことが起きたのであれば感謝の気持ちを持つことができるが、特にそういったこともなければ感謝の気持ちを持つことは難しい。以前、私はこのような気持ちを持っていました。

ところが、ある本に、こんなことが書かれていました。

「感謝の気持ちは持たなくてもいいので、『ありがとう』と呟き続けなさい。」 「面白い!どうなるんだろう」

そう思った私は、とりあえず2週間だけやると決め、合間の時間に『ありがとう、ありがとう、ありがとう、…』と呟いてみました。1週間が経った頃は、呟いている最中に「なぜ『ありがとう』と言っているんだろう」という疑問が浮かんでも、「それはあの本に書いてあったことを2週間だけやると決めたからだ」という答えを自分に対して返していました。

しかし、2週間目に近付くと、「なぜ『ありがとう』と言っているんだろう」という疑問に対して、『ありがとう』の理由を無理やりにでも探そうとする自分がいました。

目が見える、耳が聴こえる、五体満足だ、健康である、仕事がある、お給料がもらえている、両親が元気だ、兄弟が元気だ、友人がいる… たくさんの『ありがとう』の理由を見付けるようになりました。そして、その理由が見つかると、自ずと感謝の気持ちが湧いてくるようになりました。

ただ、その理由は、今まで「当たり前」として、ありがたいとも思わなかったことでした。

そこで気付いたのが、「当たり前を当たり前として捉えなければ、感謝できることはいくらでもある」ということです。感謝の気持ちは「当たり前」の背後に隠れていたのです。 以来、今日に至るまで、毎日欠かさず『ありがとう』を呟くようにしています。

この体験は、脳が認知的不協和を解消しようとしたことから生まれたものです。 私は感謝の気持ちを抱いていないにもかかわらず、「ありがとう」と呟き続けました。

そのため、①感謝の気持ちを抱いていない、②「ありがとう」と呟いている、という認知的不協和が生じることになります。

脳はこの認知的不協和を解消すべく、①と②のどちらかを変化させようとします。しかし、「ありがとう」と呟き、その声を自らの耳で聞いていることは事実として起きたことなので、②を変化させることができません。

そのため、脳は感謝の気持ちを抱く理由を無理やりにでも見付けさせ、実際に感謝の気持ちを感じさせるようにしました。

その結果、脳は①を「感謝の気持ちを抱いている」という状況に変化させ、認知的不協和を解消しました。この認知的不協和を解消しようとする脳の性質から考えると、言葉によって感情をコントロールすることが可能であることが分かります。

10社以上の会社を上場に導いた経営コンサルタントの福島正伸氏は著書:『夢を叶える』(ダイヤモンド社)の中でこう書いています。

「私は問題が起きた時に、言うセリフがあります。『チャンス!いよいよ出番が来たようだな』」 問題が生じた時、「ピンチ!」と感じても、「チャンス!」と言ってみる。 当然ながら認知的不協和が生じるため、大きな違和感を覚えます。

ただ、脳は認知的不協和を解消しようと、起きた出来事を「チャンス!」として捉えようとします。すると、だんだんと気分が前向きになってくる。この考え方も、脳は認知的不協和を解消しようとするという性質を活かした、感情をポジティブに保つ効果的な方法です。

言葉は感情に影響を与えます。 ポジティブな言葉を発すれば、感情もポジティブな方向へ導かれる。ネガティブな言葉を発すれば、感情もネガティブな方向へ導かれる。

何かを学び、現場で実践するためには、自らの感情を整える必要があります。

自らの感情を整える上では、発する言葉によって感情をある程度コントロールできるということを知っておかれるとよいでしょう。

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