2021.9.176つの質問力を鍛え、コミュニケーション力を高める
この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
(社)日本経営心理士協会 代表理事/経営心理士、公認会計士、税理士
19歳から心理学を学び、1,200件超の経営指導の経験を基に成果を出す人の行動を心理学的に分析し、経営心理学として体系化。その内容を指導し、経営改善の成果を高める。
その手法を伝える経営心理士講座を開講。国内、海外からのべ4,000名超が受講。民間企業や金融庁でもその内容が導入される。日経新聞、日経ビジネス等、メディア取材も多数。
日本経営心理士協会代表の藤田です。
私は経営心理士として優れた経営者やビジネスパーソンの行動を心理学的に分析した結果を経営心理学として体系化し、経営のコンサルティングを行い、その内容を学ぶ経営心理士講座を主宰しています。
皆さんは質問の力をどこまで意識して活用しているでしょうか?
質問は様々な力を持ちます。
ただ、何となく質問を使っている人と、質問が持つ力を意識して使っている人とでは、関係構築、コンサルティング、問題解決、説得、交渉などにおいて大きな差が生じます。
それほどに質問は強い力を持ちます。
私は経営心理士講座で質問の力の活用の仕方についてお伝えしていますが、実際に受講生の方が高い成果を残されています。
受講生の成果の事例についてはこちらをご参照ください。
今回はその質問が持つ力のうち、次の6つの力とその力をどう鍛えるかについてお話ししたいと思います。
1.提案の精度を高める力
2.会話の流れを作る力
3.感情を変える力
4.会話を弾ませる力
5.人を育てる力
6.相手を認める力
1.提案の精度を高める力
①質問で提案の精度を高める力とは
何らかの提案をしたり、アドバイスをしたりする上では、相手から喜んでもらえる精度の高い内容にしたいものです。
そのためには優れた知識やアイディアを伝えることが大事だと思っている方も多いでしょう。
ただ、どれだけ優れた知識やアイディアでも、相手の状況を正確に把握できていないと的外れなものになってしまいます。
そのため、提案やアドバイスをする上で重要なのが状況を正確に把握するということです。
例えば、従業員9名の会社の社長から「うちの従業員のモチベーションが低い」という相談をされたことがありました。
一般的には給料を上げる、ビジョンを示す、懇親会を企画するなどの提案が考えられます。
ただ、状況を正確に把握するために、次のように質問を重ねていきました。
自分:具体的にはどの方のモチベーションが低いですか?
相談者:う~ん、そうですね。A氏とB氏とC氏ですかね。
自分:なるほど。それ以外の方のモチベーションはいかがですか?
相談者:言われてみるとそれ以外の従業員はそこまでモチベーションは低くないですね。
自分:了解しました。ありがとうございます。では、その三名の方について、順番に考えていきたいと思いますが、まずA氏は今、どんなお仕事を担当されていますか?…
このように質問を重ね、三名の方のモチベーションが低い原因を突き止め、個別に解決していきました。
「うちの従業員のモチベーションが低い」という言葉を聞くと従業員全員のモチベーションが低いと思い込みがちです。
しかし、質問を重ねることで現場の状況は自分が思い込んでいた状況と違っていることに気付けます。
先方も従業員全体のモチベーションが低いという印象を持っていたものの、「具体的には誰ですか?」という質問をされると認識を改めます。
従業員全員のモチベーションが低いのか、9名中3名のモチベーションが低いのかで提案する内容は異なります。
こういった状況把握が提案や助言の精度を大きく左右します。
ただ、状況を正確に把握しようとする人は決して多くはありません。
例えば、弊社にも多くの営業の方が来られて提案をされます。
でもこちらの状況を正確に把握しようとすることなく、パンフレットを広げ、会社説明、商品説明をして値段を伝えるという提案の仕方をされる方がほとんどです。
一方で、これまで記録的な営業成績を残している営業の方々の説明の仕方を聴かせていただき、その内容を分析してきました。
そのほとんどの方は様々な角度から質問を重ねていきます。
こういった方々は、状況を正確に把握しないと精度の高い提案ができない、そのためには質問を重ねる必要があるということを分かっています。
②質問で提案の精度を高める力を鍛えるには
この力を鍛えるにはまず状況を正確に把握する習慣をつけることです。
先ほどの例のように、本人の説明は必ずしも現場の状況を正確に表していないことがあります。
その場合でも具体化の質問を重ねていくと、現場の正確な状況が分かってきます。
本人の説明を鵜呑みにせずに具体化の質問で状況を確認する。
これは提案や助言の精度を高める上で重要なコミュニケーションです。
このように提案や助言の際には現場の状況を正確に把握しようという意識を持ってコミュニケーションをとることで、この力は鍛えられていきます。
これ以外にも様々な切り口から質問を重ねることで本質的な提案や助言が可能になります。
その質問の重ね方については経営心理士講座のビジネスコミュニケーション心理士コースクラスAでお伝えしています。
ビジネスコミュニケーション心理士コースクラスAの詳細はこちらですので、ご興味ある方はご覧いただければと思います。
https://keiei-shinri.or.jp/applyinfo/course/business/
2.会話の流れを作る力
①質問で会話の流れを作る力とは
人は質問されると無意識的にその質問に答えようとします。
例えばクイズ番組を見てると「では問題です。~とは一体何でしょう?」とテレビから質問されます。
その質問に対してつい答えを考えてしまっていないでしょうか。
このように質問は無意識のうちに人の思考に影響を与えます。
質問が持つこの性質から、例えば名刺交換の際に「どんなお仕事をされているんですか?」と質問すれば、相手は仕事について話してくれると思います。
「ご出身はどちらですか?」と質問すれば、出身地の話をしてくれるでしょう。
二人の会話において相手が何を話そうが自由なはずです。
しかし、質問することによって相手はついその質問に答えようとするため、質問に関する話をしてくれるようになります。
こういった質問の力を活用することで、自然と会話の流れを作ることができます。
例えば、こんなイメージです。
自分「最近、仕事の調子はどうですか?」
相手「おかげさまで商品の売れ行きが良くて、かなり忙しいですね」(話題:仕事の調子)
自分「それはいいですね。どの商品が一番売れているんですか?」
相手「断トツでAですね。Bも悪くないですがAがBの2倍売れてます」(話題:一番売れている商品)
自分「そうですか。でもそんなに忙しいと体調が心配ですが、大丈夫ですか?」
相手「いや、実はずっと机に張り付いてデスクワークなので首と肩がガチガチでかなりきついんですよね」(話題:体調)
自分「それはまずいですね。整体には通ってないんですか?」
相手「行きつけの整体がありましてね。そこが腕がいいんです。なので、行った直後は随分楽になるんですけどね。ただ、3日もすればまたガチガチです」(話題:行きつけの整体)
上記の会話は「仕事の調子」→「一番売れている商品」→「体調」→「行きつけの整体」と相手の話題が変化しています。
この変化は自分が質問することによって生じています。
つまり、この話題について話したいと思えば、その話題に関する質問をすれば自然と会話をその話題に導いていくことができます。
②質問で会話の流れを作る力を鍛えるには
この力を鍛えるには、まず会話の中で質問することによって相手の話す内容がどのように変化していくかを観察してみてください。
そして、次に話したい話題に導くように質問し、相手が自然とその話題について話してくれるようにする練習をしてみてください。
こういった練習を重ねていくと質問によって会話の流れを作ることができるようになり、この力を鍛えることができます。
3.感情を変える力
①質問で感情を変える力とは
質問は感情を変える力も持っています。
例えば、「最近、嬉しかったことは何ですか?」と質問されれば嬉しかったことを思い出し、「嬉しい」という感情が甦ってくるでしょう。
逆に、「最近、ヒヤッとしたことは何ですか?」と質問されるとヒヤッとしたことを思い出し、恐怖や緊張といった感情が甦ってくるでしょう。
先ほどお伝えしたように、人は質問されると無意識的にその内容について思考するため、その思考の内容に沿った感情が想起されるわけです。
②質問で感情を変える力を鍛えるには
この力を鍛えるためには、この人をこういう感情にしたいなと思う感情が想起される質問をしてみてください。
楽しい感情になってもらいたいなら、「最近、なんか楽しいことあった?」と質問してみてください。
相手のその内容を深く掘り下げて聞いていくと、相手はより具体的に楽しかったことを思い出し、「楽しい」という感情がだんだんと想起されるでしょう。
このように質問で相手の感情を変えることを繰り返していくと、この力を鍛えることができます。
4.会話を弾ませる力
①質問で会話を弾ませる力とは
会話を弾ませるには2つのアプローチがあります。
一つは話し手として会話を弾ませる方法。
これは面白いことを自分が話して会話を弾ませる方法です。
ただ、話をすることが得意ではない人は、この方法は難しいでしょう。
そしてもう一つは聴き手として会話を弾ませる方法です。
これは質問をして相手に話してもらい、その話を良いリアクションで聴き、更に質問で話を掘り下げていくことで会話を弾ませる方法です。
多くの場合、会話が弾まない原因は次の2つです。
・聴き手のリアクションが悪い(聴き方が悪い、共感しない、話に乗ってこないなど)
・話し手の話に対して聴き手が質問をせず、話が途切れる
ここで知っておいていただきたいのが、会話が弾むかどうかの主導権を握っているのは話し手ではなく聴き手であるということです。
話し手がどれだけ面白い話をしたとしても、聴き手がその話をつまらなそうに、無表情、ノーリアクションで聴いていたら、会話は弾みようがありません。
逆に一般的にはつまらない話であったとしても、聴き手がその話を興味津々に抜群のリアクションで聴いていれば、話し手はどんどん話したくなり、会話は弾んでいきます。
つまり、話し手として会話を弾ませる方法は相手に会話が弾むかどうかの主導権を握られる方法であり、聴き手として会話を弾ませる方法は自分が主導権を握る方法なのです。
聴き手として会話を弾ませる上で大事なのが、聴き方と質問の仕方です。
質問はどんな質問でもいいというわけではなく、相手が「よくぞ聞いてくれました!」と思わず話したくなるような質問をすることが重要です。
こういった質問を投げかけて、その話を抜群のリアクションで聴いていれば、会話が弾む可能性は極めて高くなります。
②質問で会話を弾ませる力を鍛えるには
この力を鍛えるには、まず共感すること、そして共感を表現することが重要です。
会話が弾むという状況を生み出すのは共感からです。
ただ、ここで注意しなければいけないのは、共感するだけでなく、共感を表現することまで必要だということです。
心の中ではとても共感している、ただ表情や言葉、態度などにその共感が表れていない。
それでは相手は共感してくれているとは感じません。
その結果、会話が弾むことも難しいでしょう。
そのため、共感し、かつ、共感を表現することを意識することが、この力を鍛える上では必須となります。
そしてもう一つ大事なのが、相手が「よくぞ聞いてくれました!」と感じる質問にはどのような質問があるのかを考え、その質問を試し、相手の反応を見ながらブラッシュアップすることです。
この聴き手として会話を弾ませる方法は、話をすることが得意ではない人でも練習すればできるようになります。
では、相手が「よくぞ聞いてくれました!」と感じる質問にはどのような質問があるのでしょうか。
この点について書くとずいぶん長くなるので、詳細は経営心理士講座のビジネスコミュニケーション心理士コースクラスA「人を動かす対話の進め方」という講座でお話しします。
詳細はこちらになりますので、ご興味ある方はご覧いただければと思います。
https://keiei-shinri.or.jp/applyinfo/course/business/
5.人を育てる力
①質問で人を育てる力とは
人は質問されるとそのことについて考え、継続して質問していくとその答えを求めて行動を起こすようになります。
例えば、上司から毎月「仕事の効率を上げるために何かいい方法はあるかな?」という質問をされたらどうでしょうか。
質問される度にそのことについて考え、普段からも「また上司から質問されるぞ」と思って、仕事の効率を上げる方法を考えるようになるでしょう。
時にはその答えを求めて本を読んだり、ネットで調べてみたり、知り合いや上司に聞いたりすることもあると思います。
その結果、以前よりも仕事の効率は上がっていくでしょう。
こういった質問をされた場合と特に何の質問もされない場合とを比べると、仕事の効率に大きな差が生まれるというのは言うまでもないでしょう。
このように継続して同じ質問をすることによって、相手の思考や行動を変えることができ、それが相手の成長を促進します。
②質問で人を育てる力を鍛えるには
誰か育てたい相手がいる場合は、どういう力を身に付けてもらいたいか、そのためにはどういうことについて普段から考え、行動を起こしてもらいたいかを明確にします。
そして、そのために必要な質問を考え、継続的にその質問をしていきます。
そこで良い答えが出たら褒めます。
こういった関わりを続けていくと、どういった質問が人を育てる上で効果的かが徐々に分かってきます。
これによってこの力は鍛えられていきます。
6.相手を認める力
①質問で相手を認める力とは
相手の話に興味があると、その話についてもっと知りたいと思い、自ずと質問が出たりするものです。
例えば名刺交換の時、相手の話した内容について興味がわけば、いろいろと知りたくなるので質問するのではないかと思います。
質問された側も自分の話した内容について相手が質問してくれると興味を持ってくれていると感じるでしょう。
逆に何の質問もしてくれずにさらっと流されると興味を持ってくれてないのかなと感じると思います。
相手の話に興味を示すということは相手を認めるコミュニケーションです。
人は相手から受けたことと同じことを返そうとする「返報性」という心の性質があります。
そのため、自分のことを認めてくれる相手のことは自分も認めようとし、相手の話をより興味を持って聞こうとします。
つまり、自分の話を興味を持って聴いてもらうためには、まず相手の話を興味を持って聴くことであり、そのために必要なのが質問です。
このように質問には相手を認める力があり、その力が相手との関係を築いていく上で効果を発揮していきます。
②質問で相手を認める力を鍛えるには
相手の話に対して興味を持って質問をし、相手の話を引き出していくことでこの力は鍛えられるようになります。
その経験を通じて、興味を持って質問をするということが、相手を喜ばせるコミュニケーションなんだということが分かってくると思います。
それが質問をすることで相手を認めるということの理解をより一層深めることになるでしょう。
以上、6つの質問力とその鍛え方についてお伝えしてきました。
これ以外にも質問には様々な力があります。
その力を使いこなせるようになると、人間関係作り、提案や助言、問題解決、説得、交渉などの成果を大きく高めることができます。
日本経営心理士協会では、1,000件超のコンサルティング事例と心理学に基づいて、経営やビジネスの成果を高めるスキルを身に付ける経営心理士講座を開催しています。
その中のビジネスコミュニケーション心理士コースクラスAでは、人間関係作り、提案や助言、問題解決、説得、交渉などの成果を高める質問力の磨き方について解説します。
ビジネスコミュニケーション心理士コースクラスA ~人を動かす対話の進め方~
https://keiei-shinri.or.jp/applyinfo/course/business/
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では、最後までお読みいただき、ありがとうございました。