ES (Employee satisfaction)
ESは日本語では「従業員満足度」と訳されます。
所属している組織に対して従業員がどれだけ満足しているかを表すもので、この指標が高いことが、企業利益の向上やCS(顧客満足度)向上にも良い影響を与えると考えられています。
ESに注目が集まるようになった背景
従業員満足度という考えがはじめて提唱されたのは、1930年代の米国。管理学者であるロバート・ホポックの著書「Job Satisfaction」(1935年)によって、従業員満足度に影響する仕事内容あるいは上司と部下との関係に関する調査が発表されました。
以降、米国を中心とし、ESに関する様々な研究や見解が発表されることとなります。
そして、1984年、日本では「職務満足の心理学的研究(西川一廉 著)」が発表され、2000年頃から徐々にESの認知度が高まり、今では経営に与える重要な指標の1つとして注目されています。
近年、ESが注目されるのは、多くの企業にとって人材の確保が課題となってきているからです。
かつてのように1つの会社で長く働き続けるという価値感が変化し、よりよいキャリアを求めて流動的に離職、転職が行われるようになっている現代において、いかに離職率を下げ、従業員の定着を図るかが、経営者や人事、管理者の悩みとなっています。
その取り組みの1つとして、ESの向上が掲げられています。
ESの要素
ESを高めるためには、まずその要素を理解し、継続してES向上に向けた取り組みを行っていかなければなりません。
ESに影響を与える主な要素としては、①企業文化・理念・ビジョン、②仕事のやりがい、③評価・処遇、④人間関係・職場環境の4つが挙げられます。
①企業文化、理念、ビジョン
企業にはそれぞれ異なる文化や理念、ビジョンがあります。
例えば、「安定志向と成長志向」、「個人主義かチームワークか」などの文化の違い、あるいは、「何のためにこの企業が存在するのか」「どんなビジョンを持っているのか」など、当然ながら、企業によってその性質は異なります。
ESで重要なのは、「こういった企業文化・理念・ビジョンが良い」のではなく、その企業に根付いているもの・掲げているものに対し、従業員がいかに共感できているかどうかです。
従業員が深く共感しているのであれば、満足度にポジティブな影響を与えます。
企業文化などへの共感度が低いことがESにマイナスの影響を及ぼすのはもちろん、会社が何を目指しているのかが分からないことも従業員に不安感を与えてしまうため、企業はESを高めていく上ではこれらの共有・浸透を積極的かつ継続的に行うことが重要になります。
②仕事のやりがい
自分の仕事がいかに人や社会の役に立っているのかといった仕事のやりがいは、ESの重要なポイントの1つです。仕事そのものに対してはもちろんのこと、職務や責任・成長などが、仕事の充実度を高め、満足度向上につながります。
しかしながら、業務量・労働時間が過度な状態が続くと、仕事が「充実」している状態とは言えませんし、あるいは、自分の仕事に達成感を見出せないことや、何のためにやっているかが分からない不透明な状態は、ESを下げてしまうので注意が必要です。
③評価、処遇
不透明な人事評価や不公平な処遇などは、当然ながらESに大きなマイナスの影響を与えるだけでなく、退職の要因としても高い割合を占めています。
自分の仕事が正当に評価されている、あるいは、納得感のある報酬や処遇であることは、ESの向上に欠かせない要素です。また、働きやすさや生活のしやすさに直結する福利厚生の充実も重要です。
④人間関係、職場環境
確かに会社は仕事をする場所ですが、そこには働く人同士の人間関係が必ず存在します。
いくら仕事内容に満足感・充実感を覚えていたとしても、人間関係の問題や職場の雰囲気が良くないことによるESへのマイナス影響は大きいと言えます。
「思っていることが言えない」「お互い無関心である」「連携ができない」「ハラスメントがある」などのトラブルは、そのままにしておくことで、満足度の悪化あるいは多くの退職者を出してしまいかねません。
ESを高めていくためには、こういったトラブルを単に当人同士のトラブルと捉えず、管理者である上司が積極的に課題解決へ取り組むことが求められます。
このように、一言で「ES」と言っても、その側面は多岐にわたり、従業員の働きやすさや働きがいへの各取り組みを継続して行うことが、ESの向上に繋がります。
ESを高めるための企業の取り組み事例
では「ESの高い企業は、どんな取り組みをしているのでしょうか。
例1)サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社は、柔軟なワークスタイルを実現させることで離職率を大幅に改善させています。
育休・介護時短勤務などの制度への取り組みはもちろん、35歳以下の若手社員が留学や転職などをしても復職可能とする「育自分休暇制度」の設定や、子連れ出勤・副業自由化など、さまざまな取り組みを行っています。
例2)株式会社ラクーンホールディングス
近距離通勤支援を行い、手当を支給している、株式会社ラクーンホールディングス。
結果、従業員の約1/3がこの制度を活用し、通勤時間短縮によりワークライフバランスの充実につなげることができています。
例3)株式会社富士通ラーニングメディア
感謝の気持ちや称賛の言葉を伝えたい時、従業員同士で手書きのサンクスカードを渡す制度を導入。受け取った枚数だけでなく贈った枚数も社内で表彰することにより、制度の活用も活性化されました。
また、従業員同士が気持ちを伝えることで、お互いの仕事に関心を持つことが出来たり、目立たない組織貢献にも注目が集まったりするなど、承認・心理的安全性を高める効果を生みだすことに成功しています。
ESは多面的な要素がある分、様々な取り組みを行うことができます。
また、例にあげた「サンクスカード」のように、コストをかけずとも導入でき大きな効果に繋がるものもあります。
また、「従業員満足度調査」等のアンケートを行うことも、自社の現在地を知る重要な指標となります
ESを高める効果とは
ESを高めることは、企業にとっての人員確保、従業員にとっての働きやすさ・働きがいに繋がることだけにとどまりません。
ES向上のメリットは大きく3点あります。
人材の定着
従業員が企業で働くことに対して満足度の高い状態にあるため(エンゲージメント率が高い状態)、離職率が下がり、社員の定着率が高くなります。また、より優秀な人材の確保・定着により、業績の向上にも繋がります。
生産性向上
働きやすさや働きがいは、モチベーションや主体性の向上にも繋がり、生産性を高めます。
例えば、職場内の人間関係が良好な状態だと、コミュニケーションも活発になります。
意欲の高い従業員同士のコミュニケーションは、仕事での連携や協力体制を促進し、さらにはイノベーションが起きやすい状態となります。
CS(顧客満足度)の向上
ESの向上は、CS(顧客満足度)の向上に繋がります。従業員が自身の仕事に誇りをもって業務に取り組めることで、より良いサービス提供に繋がり、その結果、CS(顧客満足度)の向上にも繋がるのです。ESを高めることによる効果はデータとしても実証されています。
厚生労働省の調査発表*によると、売上高営業利益率、売上高がともに増加傾向にある企業は、従業員と顧客満足度の両方を重視する経営方針を掲げている傾向があるとされています。また、人材についても確保できている割合が高い結果となっています。
*厚生労働省:今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業(平成27年度)の報告
この結果は、サービス・マーケティングの先駆者でハーバード大学の教授である、ヘスケット氏とサッサー氏によって1994年に発表された、「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」という概念にも通じます。
SPCでは、ESにより生産性やサービス品質が向上し、CS(顧客満足度)向上につながる、そして売上・利益の向上につながることで、従業員への還元がなされ、さらなるES向上につながるとされ、ESがCS(顧客満足度)や企業利益にもたらす影響の大きさを表しています。
ESは顧客・企業にとって欠かせない要素
ともすれば、売上・利益のために「CS(顧客満足度)」にばかりフォーカスしてしまいがちですが、実際にはCS(顧客満足度)だけではなく、ES・CS(顧客満足度)の両方を重視し、魅力のある職場づくりに取り組んでいる企業の方が良い効果を生み出しているため、ES向上のための取り組みは企業の成長のためには極めて重要な要素です。
経営者・管理者がまずこのことを理解し、働きやすく働きがいのある職場づくりを行うことで、従業員・顧客・企業の三方にとって満足度の高い結果を生み出すことができます。
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では、最後までお読みいただき、ありがとうございました。