2020.4.17心理学的に見た離職の原因と対策を解説
この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
(社)日本経営心理士協会 代表理事/経営心理士、公認会計士、税理士
19歳から心理学を学び、1,200件超の経営指導の経験を基に成果を出す人の行動を心理学的に分析し、経営心理学として体系化。その内容を指導し、経営改善の成果を高める。
その手法を伝える経営心理士講座を開講。国内、海外からのべ4,000名超が受講。民間企業や金融庁でもその内容が導入される。日経新聞、日経ビジネス等、メディア取材も多数。
日本経営心理士協会代表の藤田です。
私は経営心理士として優れた経営者やビジネスパーソンの行動を心理学的に分析した結果を経営心理学として体系化し、経営のコンサルティングを行い、その内容を学ぶ経営心理士講座を主宰しています。
「うちは給料が安いから離職率が高くても仕方ない」
経営のご相談を受ける中で、このように話される方もいらっしゃいます。
では、もし給料を上げることができたら、離職率は下がるのでしょうか。
これまで経営心理士として様々な離職の相談を受け、離職の心理について分析してきましたが、人間が本能的に持つ欲求から職場に求めるものを考えると離職の理由が明確になってきました。
この内容を踏まえてコンサルティングをしたところ、離職率が下がった、人が辞めなくなったというご報告が数多く来ています。
その事例はこちらをご参照ください。
従業員の心理の理解を深め、組織を成長させた会社の事例はこちら
今回はその離職の心理についてお話しします。
高い給料を払っていれば社員は辞めないのか?
社員の離職が止まらないんです。
今、募集をかけても人が採れないので、辞められると本当に現場が回らなくなるんです。
背に腹は代えられないので、もっと給料を上げた方がいいですかね?
人手不足の状況にある会社からこういったご相談を受けることが増えています。
募集して人が採れれば、社員に辞められても採用で補うことはできます。
ただ、少子化でどこの会社も人を採るのが難しい時代。
募集しても人が採れない状況で、今いる従業員に辞められてしまうと現場が回らなくなる。
これは死活問題です。
今、そういった企業が多くなっています。
こういったご相談の背景には「高い給料を払っていれば社員は辞めない」という考え方が存在しています。
もしそれが事実ならば、給料が高い会社は離職率が低いことになります。
しかし、給料が高くても離職率が高い会社は数多くあります。
離職の本質的な原因、それはむしろ給料以外のところにあることが多いです。
離職の本質的な原因となる欲求とは?
これまで会社を辞めるかどうかの相談も数多く受けてきました。
また、転職した人に「なぜ前職を辞めようと思ったのか?」についてヒアリングもしてきました。
その中で離職の理由には顕著な傾向があることが分かりました。
それは人間が根源的に抱く欲求が満たされない時、退職を考えるということです。
欲求の話となるとエイブラハム・マズローが提唱した「欲求段階説」が有名です。
ただ、私は経営コンサルティングにおいては、クレイトン・アルダファーが欲求段階説を更に進化・発展させた「ERG理論」を活用しています。
なぜならこちらの方がシンプルで経営改善に活用しやすいからです。
ERG理論は生存欲求、関係欲求、成長欲求の3つの欲求から構成されます。
生存欲求は安心・安全に生きていきたいという欲求です。現代ではお金が大きく関係します。
関係欲求は良好な人間関係を築き、人から認められたいという欲求です。
成長欲求は苦手を克服し、創造的・生産的でありたい、更なる可能性を追求したいという欲求です。
人はこの3つの欲求を強く抱いています。
そのため、人は十分な給料を払ってくれて、良好な人間関係のもと自分のことを認めてくれて、自分を成長させてくれるリーダーについて行きたい、そういった会社で働きたいと思う存在だと捉えることができます。
「高い給料を払っていれば社員は辞めない」
この考え方は生存欲求のみを考慮している考え方です。
離職の原因が関係欲求や成長欲求が満たされないことにあるのであれば、給料を上げたところで離職率の高さは根本的には解決されないでしょう。
実際、離職に関する相談やヒアリングにおいても、この3つの欲求のどれかが満たされないことが理由で離職を考えている、あるいは離職したという回答がほとんどでした。
それ以外の離職理由は出産や介護、両親の会社を継ぐといった家族の問題でした。
平成29(2017)年度に内閣府が行った、就労等に関する若者の意識を調査した「子供・若者の意識に関する調査」において、初職の離職理由に関するアンケートでは、次のような結果が出ています。
1位:「仕事が自分に合わなかったため」 43.4%
2位:「人間関係がよくなかったため」 23.7%
3位:「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」 23.4%
4位:「賃金がよくなかったため」20.7%
1位:「仕事が自分に合わなかったため」は成長欲求に関するものであり、2位:「人間関係がよくなかったため」は関係欲求に関するものです。
そして、3位:「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」 、4位:「賃金がよくなかったため」は生存欲求に関するものいえるでしょう。
この結果からも、ERG理論と離職理由は密接に関連していることが読み取れます。
離職率を下げるための関係欲求を満たす関わり
関係欲求は良好な人間関係を築き、人から認められたいという欲求です。
関係欲求が満たされない状況とは、社内の人間関係が良くない(特に上司との関係)、孤独感や疎外感を感じる、仕事内容を認めてもらえないといった状況です。
関係欲求を満たすためには相手を認める関わりが重要になります。
相手を認める関りとしては、共感して話を聴く、褒める、感謝を伝える、労をねぎらう、気にかけるといった関わりが挙げられます。
この認める関わりのベースとなるのが共感して話を聴くことです。
共感して欲しい、気持ちを分かって欲しいというのは人間の極めて強い欲求です。
周囲の人が誰も自分の話に共感してくれず、気持ちを分かってもらえず、否定ばかりされることが続いたら、多くの人が心を病んでしまうでしょう。
逆に共感して話を聴いてもらえると関係欲求が強く満たされ、心が元気になります。
そのため、自分の気持ちに共感してくれる仲間がいる職場は、給料が安くても離れがたい職場となります。
逆に、自分の気持ちに共感してくれる相手がいない職場は、給料が高くても早く辞めたくなる職場となります。
特に上司が自分の話に耳を傾け、思いを分かってくれる人かどうかで、関係欲求が満たされる可能性は大きく変わってきます。
そして、良い点はきちんと褒め、感謝を伝え、頑張っている点は労をねぎらう。
この褒める力、感謝を伝える力、労をねぎらう力は良い点を見付ける力に比例します。
見付ける力が弱い人は、「褒めたくても褒めるところがないから褒めようがない」と開き直ってしまいます。
見付ける力がついてくると、それまで見つからなかった部下の良い点が見付かるようになってきます。
そのためには普段から「どこか良い点はないか」とアンテナを張って、探す練習が必要になります。
管理職の方が見付ける力をつけて、認める関わりをできるようになった結果、離職率が大きく下がった会社も少なくありません。
離職率を下げるための成長欲求を満たす関わり
成長欲求は苦手を克服し、創造的・生産的でありたい、更なる可能性を追求したいという欲求です。
成長欲求が満たされない状況とは、成長している実感が得られない、今後の成長が見込めそうにない、今の仕事やこの会社に可能性を感じないといった状況です。
特に向上心が強い人は成長欲求が強く、成長欲求が満たされないと年収が下がったとしても成長できる場所を求めて離職していきます。
そのため、会社の将来を担う向上心の高い人材を確保するためには、成長欲求を満たす関わりが重要になります。
そのための関わりとしては、目標を与え、達成したら褒め、より難易度の高い目標を与えるといったものが挙げられます。
そして、本人の成長の跡を伝え、今後更なる成長を期待するコミュニケーションが重要になります。
更には研修やOJTを充実させ、新たな知識やスキルを身に付ける機会を設ける。
会社としても社員がワクワクするような今後のビジョンを掲げ、会社の成長と共に自分も新たな可能性が得られると感じられる状況を作ることが重要になります。
本能的な欲求を満たす経営をすることの意義
経営学や組織論に関しては様々な考え方がありますが、社員は人間である以上、人間が本能的に抱く欲求を満たす経営をすることはあらゆる経営学や組織論のベースとなると考えています。
そのため、離職率の高さに悩むのであれば、この3つの欲求を満たすという視点を持った経営を意識することが悩みの解決のカギとなります。
これらの欲求を満たし、離職率を下げる方法について、本記事で一部お伝えしてきましたが、経営心理士講座の組織心理士コースでは、関係欲求と成長欲求を満たす関わりについて、具体的なコミュニケーションの取り方、面談の仕方、仕事の進め方について心理学的な解説を交えてお伝えします。
こちらのコースの受講生の方からは、社員のモチベーションが上がり、離職率が下がったというご報告を数多くいただいています。
離職率が下がった事例と組織心理士コースクラスAの詳細はこちら
組織の一体感向上の事例と組織心理士コースクラスBの詳細はこちら
経営心理士講座はその成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行、大手企業、士業の認定研修にも導入されています。
また、経営心理士講座の説明会である体験講座「経営心理学を用いると人材と業績はこう変わる」を毎月開催しております。
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今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。