積極的傾聴法(アクティブリスニング)
積極的傾聴法(Active Listening:アクティブリスニング)とは、相手の話をただ黙って聞くのではなく、相手が伝えようとしている内容や感情を理解しようとしながら、必要に応じて言葉を言い換えたり、要約したり、確認したりする聴き方です。
アクティブリスニングに関する代表的な文献として、心理学者カール・ロジャーズ(Carl R. Rogers)とリチャード・E・ファーソン(Richard E. Farson)による1957年の『Active Listening』があります。
ロジャーズは、相手を評価したり一方的に導いたりするのではなく、相手の内的な世界を理解しようとする姿勢を重視しました。
アクティブリスニングでも、単に「聞くためのテクニック」を使うだけではなく、相手を一人の人間として尊重し、その人がどのような意味で話しているのかを理解しようとする姿勢が重要です。
カウンセリングだけでなく、上司と部下の面談、営業、顧客対応、人材育成など、さまざまなコミュニケーションの場面で参考になる考え方です。
「聞く」と「聴く」の違い
人の話を聞いているようでも、実際には相手の話を十分に理解していないことがあります。
例えば、部下が仕事上の悩みを相談している最中に、上司が、
「それならこうすればいい」
「私も昔同じ経験をした」
「そんなことで悩む必要はない」
とすぐに答えてしまう場合です。
上司には助けようという気持ちがあったとしても、部下が本当に何に困っているのかを十分に理解する前に解決策を提示している可能性があります。
積極的傾聴では、すぐに答えを出すのではなく、まず相手が何を経験し、何を考え、どのように感じているのかを理解しようとします。
積極的傾聴は「質問をたくさんすること」ではない
積極的傾聴について、「質問によって相手の本音を引き出す方法」と説明されることがあります。
質問は有効な場合がありますが、質問の数を増やせば積極的傾聴になるわけではありません。
次々に質問すると、相手によっては「尋問されている」と感じることもあります。
むしろ重要なのは、相手の話を受け止め、その意味を理解できているか確認しながら対話することです。
例えば、
「それはかなり負担になっているんですね」
「つまり、仕事そのものより、相談できないことがつらいということでしょうか」
「もう少しそのときの状況を教えてもらえますか」
といった応答によって、相手が話を続けやすくなる場合があります。
積極的傾聴で大切なのは「理解しようとする姿勢」
ロジャーズとファーソンは、アクティブリスニングについて、単なる表面的なテクニックとして使用するだけでは十分ではないとしています。
相手を尊重し、その人自身が考え、判断する力を持っていると考える基本姿勢が重要です。
例えば、「傾聴テクニックを使えば相手が自分の言うことを聞いてくれる」という目的で相づちや繰り返しを行えば、相手に不自然さを感じさせることがあります。
相手を操作するためではなく、「この人は何を伝えようとしているのだろう」と理解するために聴くことが重要です。
ロジャーズが重視した3つの態度
積極的傾聴と関連して、ロジャーズのパーソンセンタード・アプローチでは、次の3つの態度が特に重視されています。
・共感的理解(empathic understanding)
・無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)
・自己一致(congruence)
これらは「積極的傾聴だけの3原則」として提唱されたものではなく、ロジャーズが心理療法における人間関係の条件を論じる中で重視した態度です。
1957年にロジャーズが発表した「The Necessary and Sufficient Conditions of Therapeutic Personality Change」では、治療的人格変化に関する6つの条件が示され、その中にこの3つが含まれています。
積極的傾聴を理解するうえでも重要な考え方であるため、それぞれについて見ていきます。
共感的理解
共感的理解とは、相手が見ている世界を、できる限り相手の立場から理解しようとすることです。
重要なのは、「自分だったらどう感じるか」ではなく、「この人はどのように感じているのだろう」と考えることです。
例えば、部下が、
「新しいプロジェクトを任されたのですが、正直、不安です」
と言ったとします。
上司がその仕事に自信を持っているからといって、
「そんなに難しくないから心配しなくていい」
と返せば、部下が感じている不安を十分に理解できない場合があります。
そこで、
「任されたこと自体は嬉しいけれど、うまくできるか不安もあるということでしょうか」
などと確認することで、相手の経験を理解しようとすることができます。
ただし、共感とは、相手の考えにすべて賛成することではありません。
相手の考えには同意できなくても、「なぜそのように考えているのか」を理解することはできます。
無条件の肯定的関心
無条件の肯定的関心とは、相手の発言を自分の好き嫌いや善悪の評価だけですぐに判断せず、その人自身に関心を向ける姿勢です。
例えば、部下が、
「この仕事をもうやりたくありません」
と言ったとします。
そこで、
「そんな考えでは駄目だ」
とすぐに否定するのではなく、
「そう感じるようになったのには、何か理由があるんですか」
と背景を聴く方法があります。
話を受け止めることと、相手の行動や判断をすべて認めることは同じではありません。
相手の発言を理解したうえで、必要であれば問題点を指摘したり、異なる意見を伝えたりすることもできます。
自己一致
自己一致とは、単に「感じた感情をすべてそのまま表現すること」ではありません。
ロジャーズがいう自己一致は、聴き手が自分自身の経験や感情を認識しながら、相手との関係の中で偽りのない、誠実な状態でいることを意味します。
例えば、相手の話が十分に理解できていないにもかかわらず、分かったふりをすることは、自己一致とはいえません。
その場合には、
「すみません、その部分をまだ十分に理解できていないので、もう一度説明してもらえますか」
と率直に確認する方が、誠実なコミュニケーションになります。
一方で、「自分は腹が立ったから、その怒りをそのまま相手にぶつける」といった行動を自己一致と考えるのは適切ではありません。
積極的傾聴によって期待できること
相手の話を丁寧に聴くことで、相互理解や信頼関係を深める助けになる場合があります。
また、相手が自分の考えを言葉にすることで、自分自身の状況や感情を整理しやすくなることもあります。
例えば、話し始めたときには、
「上司とうまくいかない」
という漠然とした悩みだったものが、話していくうちに、
「自分の意見を聞かずに決められることが一番つらい」
という具体的な問題に気づく場合があります。
問題が具体化すると、本人が対応方法を考えやすくなることもあります。
ただし、積極的傾聴をすれば必ず本人が答えを見つけられるわけではありません。
状況によっては、助言、専門的な支援、具体的な指示などが必要になることもあります。
上司が部下の話を聞くとき、「自分が正しい答えを教えなければならない」と考えると、つい途中で助言したくなることがあります。
しかし、部下自身が何を考え、何に悩み、何を大切にしているのかを十分に理解しないまま助言すると、的外れになることもあります。
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積極的傾聴の具体的な方法
積極的傾聴では、決まった言葉を機械的に使うのではなく、相手の話を理解するためにさまざまな応答を使います。
代表的な方法を見ていきます。
① 相手が話しやすい状態をつくる
相手が話している途中で何度も話を遮ったり、スマートフォンやパソコンを見続けたりすると、「話を聞いてもらえていない」と感じることがあります。
必要に応じて相手の方を向き、話を遮らず、適度に相づちを打つことで、話しやすい状態をつくります。
ただし、アイコンタクトの取り方や身ぶりなどの適切さは、相手や文化、状況によって異なります。
「必ず相手の目を見続けなければならない」など、形式的なルールとして使わないことが重要です。
② 相手の言葉を繰り返す
相手が話した重要な言葉を適度に繰り返すことで、「その部分を受け取っています」と伝えることができます。
例えば、
「最近、仕事に行くのが少しつらいんです」
と言われたときに、
「仕事に行くのがつらく感じているんですね」
と返す方法です。
ただし、相手の言葉を毎回そのまま繰り返すと、不自然になったり、機械的に感じられたりすることがあります。
繰り返すこと自体が目的ではなく、相手の話を理解し、確認するために使うことが重要です。
③ 言い換える
相手の話を自分の言葉で言い換えて確認する方法があります。
例えば、部下が、
「何をやっても細かく修正されるので、自分で考える意味がないような気がします」
と言った場合、
「自分で考えて仕事をしても、結局すべて直されるので、任せてもらえていないように感じているんですね」
と返すことが考えられます。
相手が、
「そうです」
と答えれば理解が近いと確認できますし、
「いや、そこではなくて……」
と答えれば、理解を修正することができます。
④ 要約する
長い話をある程度聞いた後で、内容をまとめて確認する方法です。
例えば、
「ここまでのお話をまとめると、仕事量そのものよりも、急に仕事を依頼されて予定を立てられないことに一番ストレスを感じている、ということでしょうか」
と確認します。
要約することで、聴き手の理解が正しいか確認できるだけでなく、話し手自身が自分の状況を整理しやすくなる場合があります。
⑤ 感情を確認する
話の内容だけでなく、その出来事を相手がどのように感じているのか確認することもあります。
例えば、
「かなり悔しかったんですね」
「そのときは不安だったのでしょうか」
などです。
ただし、相手の感情を決めつけないことが重要です。
「あなたは怒っていますね」と断定するよりも、
「かなり腹立たしく感じたのでしょうか」
など、相手が訂正できる形で確認する方が適切です。
⑥ 話の続きを促す
相手が話を続けようとしている場合には、
「それからどうなったんですか」
「もう少し聞かせてもらえますか」
「そのとき、どう思ったんですか」
など、続きを促すことがあります。
また、「はい」「なるほど」といった短い相づちや、少し待つことによって、相手が自分から話を続ける場合もあります。
沈黙が生まれたからといって、すぐに質問で埋める必要はありません。
相手が考えを整理するために、少し時間が必要なこともあります。
表情や声は「手がかり」であって、答えではない
会話では、言葉だけでなく、表情、声のトーン、話す速さ、姿勢などが参考になることがあります。
例えば、「大丈夫です」と言っていても、声が小さく、表情が沈んでいる場合には、何か気になっていることがあるかもしれません。
ただし、非言語的な行動だけから、相手の心理状態を断定することはできません。
「表情が暗いから悲しんでいる」と決めつけるのではなく、
「少し元気がないように見えますが、何か気になることがありますか」
などと確認することが重要です。
「否定しない」と「何でも賛成する」は違う
積極的傾聴では、相手の話をすぐに評価・批判しないことが重要です。
しかし、それは相手の考えや行動に何でも賛成するという意味ではありません。
例えば、部下が、
「取引先が気に入らないので、もう連絡したくありません」
と言った場合、その感情について、
「かなり嫌な思いをしたんですね」
と理解することと、
「では連絡しなくていいですよ」
と行動まで認めることは別です。
まず感情や背景を理解したうえで、仕事として必要な対応について話し合うことができます。
アドバイスをしてはいけないわけではない
積極的傾聴について、「絶対にアドバイスをしてはいけない」と理解する必要もありません。
相手が十分に話したうえで助言を求めているのであれば、知識や経験を伝えることが役立つ場合があります。
重要なのは、十分に理解する前に、一方的に自分の答えを押し付けないことです。
例えば、
「ここまで話を聞いて、状況は分かってきました。よければ私の考えもお伝えしていいですか」
と確認してから助言する方法があります。
上司と部下の1on1で活用する
積極的傾聴は、上司と部下の1on1でも活用できます。
上司が一方的に進捗確認や指示をするだけでは、部下が抱えている問題や考えを十分に把握できない場合があります。
例えば、
「最近、仕事をしていて気になっていることはありますか」
「今、一番やりにくいと感じていることは何ですか」
「私からどんなサポートがあると進めやすいですか」
などと質問し、その後の答えを丁寧に聴くことで、上司が把握していなかった問題が見えてくることがあります。
営業にも積極的傾聴は活用できる
営業では、自社商品の説明に時間を使いすぎると、顧客が本当に困っていることを十分に把握できない場合があります。
例えば、顧客が、
「コストを下げたい」
と言ったときに、すぐ安い商品を提案するのではなく、
「どのコストが特に負担になっていますか」
「コストが下がらないことで、現在どのような問題が起きていますか」
などと聴くことで、表面的な要望の背景が分かる場合があります。
実際には価格そのものより、人手不足や業務時間の削減を求めている可能性もあります。
顧客の言葉をそのまま受け取るだけではなく、その意味を理解しようとすることが、適切な提案につながる場合があります。
傾聴だけで解決できない問題もある
積極的傾聴は有用なコミュニケーション方法ですが、すべての問題を傾聴だけで解決できるわけではありません。
例えば、緊急時には、十分に話を聴くことより、迅速な指示や意思決定が必要になる場合があります。
業務知識が不足している部下には、話を聴くだけではなく、具体的な指導が必要です。
また、深刻な心身の問題などについては、職場の上司だけで対応しようとせず、適切な専門家や相談窓口につなぐことが必要な場合もあります。
状況に応じて、傾聴、質問、助言、指示などを使い分けることが重要です。
積極的傾聴は「テクニック」より姿勢が重要
積極的傾聴を学ぶと、「相づちを打つ」「相手の言葉を繰り返す」「要約する」といった技法に目が向きやすくなります。
しかし、ロジャーズとファーソンが重視したのは、そうした技法を機械的に使うことではありません。
表面上は「なるほど」「そうなんですね」と言っていても、頭の中では「この人は間違っている」「早く話を終えてほしい」と考えていれば、その態度が相手に伝わることがあります。
重要なのは、「相手を理解しよう」という姿勢を持ったうえで、そのための方法として繰り返しや要約、質問などを使うことです。
人を動かす前に、まず相手を理解する
積極的傾聴から得られる重要な示唆は、「人に何を言うか」を考える前に、「相手が何を考えているか」を理解する必要があるということです。
部下が動かないとき、「もっと頑張れ」と伝える前に、なぜ動けないのかを聴く。
顧客が商品を購入しないとき、「もっと商品の良さを説明しよう」と考える前に、何を不安に感じているのかを聴く。
社員が退職を考えているとき、「会社の良いところを説明する」前に、何に不満や迷いを感じているのかを聴く。
相手を十分に理解できれば、同じ言葉を一律に伝えるのではなく、その人に必要な関わり方を考えやすくなります。
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「自分が何を伝えるか」だけでなく、「相手が何を考え、何を感じているのか」を理解したうえで、人との関わり方を変えていきたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







