自己肯定感
自己肯定感とは、一般的には「ありのままの自分を認め、自分には価値があると感じられる感覚」を指す言葉として使われています。
心理学で研究されている「self-esteem(セルフ・エスティーム)」と近い意味で使われることがありますが、自己肯定感とself-esteemが完全に同じ概念というわけではありません。
self-esteemは、自分自身に対する全体的な肯定的・否定的評価を指し、日本語では「自尊感情」や「自尊心」などと訳されることがあります。
一方、「自己効力感」「自己評価」「自己重要感」などは、自己肯定感と関連する場合はあるものの、それぞれ異なる概念です。
自己肯定感は、他人と比べて自分が優れていると感じることではなく、自分の長所だけでなく短所や失敗も含めて、自分自身を必要以上に否定せずに受け止められる感覚と考えると分かりやすいでしょう。
仕事においても、自分自身をどのように捉えているかは、対人関係や挑戦への姿勢、ストレスへの向き合い方などと関連することがあります。
自己肯定感が比較的高い人に見られることがある特徴
自己肯定感の高さだけで人の性格や行動が決まるわけではありませんが、自己評価が比較的安定している人には、次のような特徴が見られる場合があります。
1 失敗や欠点があっても自分を過度に否定しにくい
自己肯定感が比較的高い人は、失敗したことと、自分自身の価値を分けて考えやすい傾向があります。
例えば、仕事で失敗したときに「自分はダメな人間だ」と考えるのではなく、「今回はやり方に問題があった」「次はここを改善しよう」と捉えやすくなります。
失敗を肯定するという意味ではなく、失敗した自分を必要以上に否定せず、改善に意識を向けやすいということです。
2 他者からの評価だけに左右されにくい
自分自身に対する評価がある程度安定していると、周囲から褒められたり批判されたりするたびに、自分自身の価値まで大きく揺れ動くことが少なくなる場合があります。
もちろん、他者からの評価や意見を気にすること自体は自然なことです。
重要なのは、他人の評価を参考にしながらも、それだけを自分の価値を判断する唯一の基準にしないことです。
3 挑戦しやすくなる場合がある
失敗したからといって自分自身の価値まで失われるわけではないと考えられると、新しいことに挑戦しやすくなる場合があります。
一方で、挑戦への積極性には、自己肯定感だけでなく、本人の経験、能力への自信、周囲からの支援、失敗した際のリスクなど、さまざまな要因が関係します。
そのため、「自己肯定感が高ければ必ず行動力が高くなる」というわけではありません。
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自己肯定感が低いときに起こることがある反応
自己肯定感が低いからといって、必ず特定の性格や行動になるわけではありません。
ただし、自分自身に対する評価が低い状態が続いていると、次のような反応が見られる場合があります。
1 失敗を自分自身の価値と結びつけてしまう
何かに失敗したときに、「今回はうまくいかなかった」と考えるのではなく、「自分には価値がない」「自分は何をやってもダメだ」と、自分自身全体への否定につなげてしまうことがあります。
こうした考え方が強くなると、失敗する可能性があることへの挑戦を避けやすくなる場合があります。
2 他者からの評価を必要以上に気にする場合がある
自分自身の評価が安定していないと、周囲から認めてもらうことで自分の価値を確認しようとする場合があります。
その結果、他人からどう見られているかを必要以上に気にしたり、自分の考えよりも周囲から否定されないことを優先したりすることがあります。
ただし、承認を求めること自体は人間にとって自然なことであり、「承認欲求がある=自己肯定感が低い」ということではありません。
3 挑戦に慎重になる場合がある
「失敗したら自分の価値まで否定される」と感じていると、新しいことへの挑戦に慎重になることがあります。
一方で、仕事への挑戦に積極的になれるかどうかには、本人の能力への見込みである「自己効力感」も関係します。
自己効力感とは、「自分はこの課題を遂行できる」「必要な行動を取ることができる」と考えられる感覚を指します。
例えば、「自分には人間として価値がある」という感覚は自己肯定感やself-esteemに近い考え方ですが、「自分ならこのプレゼンをやり遂げられる」という感覚は自己効力感に近い考え方です。
両者は関連する場合がありますが、同じものではありません。
自己肯定感と完璧主義
自己肯定感に影響を与える可能性があるものの一つに、過度な自己批判を伴う完璧主義があります。
高い目標を持ったり、自分の仕事の質を高めようと努力したりすること自体は悪いことではありません。
一方で、「少しでも失敗したら自分には価値がない」「100点でなければ意味がない」と考えるようになると、自分への否定が強くなる場合があります。
改善すべき点を見ることと、自分自身を否定することは別です。
「ここは改善する必要がある」と考えながらも、「失敗したからといって自分自身の価値がなくなるわけではない」と捉えることが重要です。
自己肯定感とセルフ・コンパッション
自己肯定感と関連する概念として、「セルフ・コンパッション(self-compassion)」があります。
セルフ・コンパッションとは、失敗や困難に直面したときに、自分を過度に責めるのではなく、自分自身に対しても思いやりを持って接する考え方です。
例えば、仕事で失敗したときに、「自分は本当にダメだ」と責め続けるのではなく、「失敗することは誰にでもある。何が原因だったのかを考えて次に活かそう」と捉えます。
これは、失敗を甘やかしたり責任を放棄したりすることではありません。
必要な反省や改善を行いながらも、自分自身を必要以上に否定しないことがポイントです。
自己肯定感を支えるためにできること
自己肯定感には、これまでの経験、人間関係、環境などさまざまな要因が関わるため、「この方法を行えば必ず高くなる」というものではありません。
一方で、自分に対する過度な否定を減らし、より安定した自己評価を持つために役立つ可能性がある方法があります。
自分に対する過度な自己批判を減らす
失敗や欠点に気づいた際に、自分自身を責め続けるのではなく、具体的に何を改善できるのかを考えることが重要です。
例えば、「自分は仕事ができない」と考えるのではなく、「今回は説明の準備が不足していた。次回は事前に確認する時間を取ろう」と具体的な行動に置き換えます。
人格全体を否定するのではなく、改善できる行動に焦点を当てることがポイントです。
セルフ・スージング・タッチ
緊張やストレスを感じた際に、自分の胸や腕などに優しく手を当てる「セルフ・スージング・タッチ」と呼ばれる方法があります。
こうした自己接触には、ストレスを感じた際の生理的な反応を和らげる可能性を示した研究があります。
ただし、「自分を抱きしめればオキシトシンが必ず分泌され、自己肯定感が高まる」とまでは言えません。
気持ちを落ち着けるための方法の一つとして取り入れるとよいでしょう。
マインドフルネス
マインドフルネスとは、今この瞬間に起きている自分の思考や感情、身体感覚などに注意を向け、それを良い・悪いとすぐに評価せずに観察する姿勢を指します。
瞑想などの方法が広く知られていますが、マインドフルネスの重要な点は、自分の中に生じている感情や思考に気づくことです。
例えば、「自分はダメだ」という考えが浮かんだときに、それを事実そのものとして受け取るのではなく、「今、自分は『自分はダメだ』という考えを持っている」と一歩引いて観察します。
このように、自分の思考や感情と一定の距離を取る練習は、過度な自己批判を減らし、自分自身をより柔軟に受け止める助けになる場合があります。
事実と自分の解釈を分けて考える
何か問題が起きたときには、「実際に起きた事実」と「自分がそこから考えた解釈」を分ける方法もあります。
例えば、上司から仕事の修正を求められた場合、「資料の一部を修正するよう指示された」というのは事実です。
一方、「自分は評価されていない」「自分には能力がない」というのは、その事実から自分が導いた解釈かもしれません。
事実と解釈を分けて考えることで、一つの出来事から自分自身全体を否定することを防ぎやすくなります。
できたことや成長した点にも目を向ける
人は失敗や不足している部分に意識が向きやすいことがあります。
改善点を見ることは重要ですが、それだけではなく、「以前よりできるようになったこと」「今回うまくできたこと」「努力を続けられたこと」なども振り返ることが大切です。
自分を必要以上に高く評価するのではなく、自分の課題と成長の両方をバランスよく見ることが重要です。
職場では「自己肯定感を高める」より、成長を支える関わりを
管理職が部下の自己肯定感そのものを直接高めようとする必要はありません。
また、外から見ただけで「この人は自己肯定感が低い」と決めつけることも避けた方がよいでしょう。
重要なのは、一人ひとりの経験や得意不得意、仕事への反応を理解し、その人が仕事を通じて成長できる環境を整えることです。
▽具体的な行動を承認する
単に「すごい」「あなたならできる」と伝えるだけでなく、具体的にどの行動が良かったのかを伝えることが重要です。
例えば、「今回の説明では、顧客の質問を最後まで聞いてから答えていた点がよかった」と伝えれば、本人は自分のどの行動が評価されたのかを理解できます。
▽結果だけでなく、工夫や成長もフィードバックする
仕事では結果が重要ですが、結果だけを見ていると、本人がどのような工夫をしたのか、何が成長したのかを見落とすことがあります。
結果がまだ出ていなくても、「以前より準備の質が上がった」「顧客への質問が具体的になった」など、実際に変化した点があれば具体的に伝えることができます。
こうしたフィードバックは、自分の行動と成長の関係を理解する助けになります。
▽成功経験を積めるようにする
仕事における自信を育てるうえでは、「自分でやってみて、できた」という経験が重要です。
最初から本人の能力を大きく超えた課題を任せるのではなく、一定の努力によって達成可能な課題から取り組み、徐々に難易度を上げていく方法があります。
こうした成功経験は、「自分ならこの仕事を遂行できる」という自己効力感を育てることにつながります。
▽必要なときには支援する
「本人の成長のため」と考えて、何でも一人でやらせればよいわけではありません。
本人の経験や能力に応じて、必要な知識を教えたり、相談に乗ったり、途中でフィードバックしたりすることも重要です。
挑戦する機会と必要な支援の両方があることで、本人は安心して新しいことに取り組みやすくなります。
自己肯定感を正しく理解する
自己肯定感が高いことは、「自分は何でもできると思うこと」や「常にポジティブでいること」ではありません。
自分の欠点や失敗を認めながらも、それだけを理由に自分自身の価値まで否定しないことが大切です。
また、自己肯定感が低いと感じる人に対して、「もっと自信を持てばいい」「もっと前向きに考えればいい」と伝えるだけでは、必ずしも改善につながりません。
仕事では、具体的な成功経験を積むこと、本人の工夫や成長を具体的にフィードバックすること、失敗しても改善に取り組める環境をつくることなどが重要です。
自分自身を必要以上に否定せず、課題があれば改善し、できている部分についても適切に認識することが、安定した自己評価につながっていきます。
日本経営心理士協会では、こうした人間心理を経営・ビジネスの現場で活用し、成果につなげる「経営心理士講座」を開催しています。
2015年の開講以来、受講生はのべ10,000名を超え、多くの方が組織作り、人材育成、営業、顧客対応などの現場で学んだ内容を実践しています。
また、日本経済新聞をはじめとする各種メディアでも取り上げられています。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







