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アンダーマイニング効果

アンダーマイニング効果とは、もともと自発的に取り組んでいた行動に対して外的な報酬を与えることで、かえってその行動への内発的な動機づけが弱まることがあるという心理学上の現象です。

英語では「undermining effect」と呼ばれます。

例えば、もともと絵を描くことが好きだった子どもに対して、「絵を描いたら毎回ご褒美をあげる」と報酬を与え続けると、やがて「絵を描きたいから描く」のではなく、「ご褒美をもらうために描く」という意識が強くなる場合があります。

そして、その後ご褒美がなくなると、以前よりも絵を描こうとしなくなることがあります。

このように、外的な報酬が内発的な動機づけを弱める可能性がある現象が、アンダーマイニング効果です。

ただし、報酬を与えると必ずやる気が下がるわけではありません。

報酬の種類や与え方、その人が行動をどのように受け止めるかによって影響は異なります。

 

内発的動機づけと外発的動機づけ

アンダーマイニング効果を理解するためには、「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の違いを理解することが重要です。

 

▽内発的動機づけ

内発的動機づけとは、行動そのものに楽しさや面白さ、やりがいを感じて行動する状態です。

例えば、「この仕事が面白いからもっと取り組みたい」「新しいことを学ぶのが楽しいから勉強する」といった状態です。

 

▽外発的動機づけ

外発的動機づけとは、報酬や評価、罰の回避など、行動そのものとは別の目的によって行動する状態です。

例えば、「ボーナスがもらえるから頑張る」「評価を下げられたくないから仕事をする」といった状態です。

外発的動機づけそのものが悪いわけではありません。

仕事では給与や賞与、評価などが重要な役割を持ちます。

問題になるのは、もともと自発的に取り組んでいた行動に対して、報酬の与え方によって「やらされている」「報酬のためにやっている」という感覚が強くなる場合です。

 

アンダーマイニング効果に関する代表的な研究

アンダーマイニング効果に関する初期の代表的な研究の一つに、心理学者エドワード・L・デシ(Edward L. Deci)が1971年に発表した研究があります。

この研究では、大学生にパズル課題へ取り組んでもらい、報酬の有無によって、その後の自発的な行動がどのように変化するかを調べました。

報酬を与えられた条件では、報酬がなくなった後に、自由時間中にパズルへ取り組む時間が減少する傾向が見られました。

この結果は、外的報酬が内発的動機づけを弱める可能性を示す研究として広く知られるようになりました。

また、1970年代にはマーク・レッパー(Mark R. Lepper)らによって、子どものお絵描き活動を用いた研究も行われました。

もともと絵を描くことが好きな子どもたちに対して、事前に報酬を約束して絵を描いてもらった場合、その後の自由時間に絵を描く時間が減少する傾向が確認されました。

こうした研究は、「外的報酬が自発的な興味を弱める場合がある」という考え方の基礎になっています。

 

なぜ報酬によってやる気が下がることがあるのか

アンダーマイニング効果が起こる理由の一つとして、行動の原因をどのように捉えるかが変化することが挙げられます。

もともとは「面白いからやっている」と感じていた行動でも、報酬が与えられることで「お金をもらうためにやっている」と感じるようになる場合があります。

その結果、行動そのものから感じていた楽しさや自発性が弱まることがあります。

また、報酬が「自分の行動をコントロールするために与えられている」と感じられる場合には、自律性が損なわれたと感じる可能性があります。

一方で、報酬が自分の能力や成長を認める情報として受け取られる場合には、必ずしも内発的動機づけを低下させるとは限りません。

そのため、「報酬があるかないか」だけでなく、「その報酬を本人がどのように受け止めるか」が重要です。

 

人のモチベーションを考える際には、「報酬を増やせば人は動く」と単純に考えないことが重要です。

同じ報酬でも、本人が「成果を認めてもらえた」と感じる場合もあれば、「これをやらないと評価されない」と感じる場合もあります。

日本経営心理士協会では、こうした人の感情や価値の感じ方、モチベーションの仕組みを、マネジメントや人材育成に活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。

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すべての報酬がアンダーマイニング効果を起こすわけではない

アンダーマイニング効果について、「報酬を与えると必ずやる気がなくなる」と説明されることがあります。

しかし、そのように単純化するのは適切ではありません。

報酬が内発的動機づけに与える影響は、報酬の種類、与え方、課題の内容、本人の受け止め方などによって異なります。

例えば、本人がもともとほとんど興味を持っていない仕事では、報酬が行動を促すうえで有効な場合があります。

また、本人の能力や達成を認めるフィードバックとして報酬が機能する場合には、内発的動機づけを損なわないこともあります。

一方で、「これをやれば報酬をあげる」という形で、行動を強くコントロールするための報酬として受け取られると、自発性が低下する可能性があります。

 

金銭的報酬が悪いわけではない

アンダーマイニング効果を知ると、「お金を与えるとやる気が下がる」と考えてしまうことがあります。

しかし、給与や賞与は、仕事に対する正当な対価であり、働くうえで重要な要素です。

報酬が十分でなかったり、不公平だと感じられたりすれば、それ自体が不満や離職につながる場合があります。

そのため、金銭的報酬をなくせば内発的動機づけが高まるというわけではありません。

重要なのは、報酬だけで人を動かそうとしないことです。

適切な報酬を提供したうえで、仕事そのものに意味や成長、裁量を感じられる環境をつくることが重要です。

 

褒めることでも注意が必要

金銭的報酬だけでなく、言葉による評価や称賛についても、その伝え方によって受け止め方が異なります。

例えば、「これをやったら褒めてあげる」という形で、相手を動かすことを目的として称賛を使うと、本人がコントロールされていると感じる場合があります。

一方で、「この部分を工夫した結果、成果につながったね」と具体的に伝えることは、本人が自分の能力や成長を理解するための情報になります。

このようなフィードバックは、単なる外的報酬とは異なる働きをすることがあります。

そのため、「褒めればよい」「褒めてはいけない」という二択ではなく、何をどのように伝えるかが重要です。

 

職場でアンダーマイニング効果が起こりやすい例

職場でも、報酬や評価の仕組みによって、本人の仕事への向き合い方が変わることがあります。

 

▽数字だけを強く評価する

例えば、営業職で「契約件数だけ」を強く評価すると、従業員が顧客への価値提供よりも、契約件数そのものを目的として行動する可能性があります。

その結果、短期的な数字を優先するようになり、仕事そのものへの関心や顧客への意識が弱くなる場合があります。

 

▽インセンティブだけで行動を促す

新しい施策を行うたびに「実行したら○円」というインセンティブを設定すると、報酬があるときしか行動しなくなる可能性があります。

もちろん、インセンティブが有効な場面もあります。

ただし、「なぜこの仕事をする必要があるのか」「どのような価値があるのか」が共有されないまま報酬だけで動かすと、外的報酬への依存が強くなることがあります。

 

▽仕事の意味を伝えない

本人が仕事にやりがいを感じていたとしても、上司が数字や報酬の話だけを繰り返すと、「この仕事は数字を達成するためだけのもの」と感じるようになる場合があります。

仕事が顧客や組織にどのような価値を提供しているのかを伝えることも重要です。

 

アンダーマイニング効果を防ぐために

アンダーマイニング効果を防ぐためには、「報酬を与えないこと」ではなく、本人の自律性や仕事の意味を損なわないようにすることが重要です。

 

▽仕事の目的や意味を共有する

「これをやれば評価する」と伝えるだけでなく、その仕事がなぜ必要なのか、顧客や組織にどのような価値を生むのかを共有します。

本人が仕事の意味を理解できれば、報酬だけではなく、仕事そのものに価値を感じやすくなる場合があります。

 

▽本人の裁量を残す

方法をすべて細かく指示すると、「やらされている」という感覚が強くなる場合があります。

成果基準を明確にしたうえで、どのように進めるかについて一定の裁量を持たせることで、自律性を感じやすくなることがあります。

 

▽成果だけでなく工夫や成長も伝える

「目標を達成したから評価する」だけではなく、本人がどのような工夫をしたか、どのような能力が伸びたかを具体的に伝えることも重要です。

このようなフィードバックは、自分の能力を理解するための情報になり、仕事そのものへの関心を支える可能性があります。

 

アンダーマイニング効果とオーバージャスティフィケーション効果

アンダーマイニング効果と関連して、「オーバージャスティフィケーション効果(overjustification effect)」という言葉が使われることがあります。

これは、もともと内発的な理由で行っていた行動に外的な報酬が加わることで、「自分はこれが好きだからやっている」のではなく、「報酬のためにやっている」と行動の理由を捉え直すことを指します。

その結果、外的報酬がなくなったときに、その行動への自発的な関心が低下する場合があります。

アンダーマイニング効果と非常に近い意味で使われることがありますが、研究や文脈によって用語の使い方には違いがあります。

 

人を動かすためには「報酬」だけでなく「意味」も重要

アンダーマイニング効果から学べるのは、「報酬を与えてはいけない」ということではありません。

仕事では、給与、賞与、昇進、評価などの外的な要因も重要です。

一方で、人が継続的に高い意欲を持って取り組むためには、それだけでは十分でない場合があります。

「この仕事にはどのような意味があるのか」「自分の成長につながっているのか」「自分の工夫を活かせるのか」といった感じ方も、行動に影響します。

また、同じインセンティブ制度でも、「成果を認めてもらえた」と感じる人と、「数字でコントロールされている」と感じる人では、心理的な反応が異なることがあります。

そのため、人を動かすには制度や報酬の設計だけではなく、相手がそれをどのように受け止め、何に価値を感じるのかを理解することが重要です。

日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、人の感情や価値認知、モチベーションがどのように生まれ、行動にどのようにつながるのかを理解し、マネジメント・人材育成・営業などに活かす方法を学びます。

「報酬を与えているのに動かない」「評価制度を整えたのに意欲が高まらない」といった課題を、人の心理という視点から考えたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

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この記事の執筆者

藤田 耕司(ふじた こうじ)

一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー

早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。

       
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