1on1
1on1(ワン・オン・ワン)とは、上司と部下が1対1で定期的に行う対話のことです。
一般的な面談とは異なり、上司から一方的に評価や指示を伝える場ではなく、部下の状況や考えを確認し、仕事上の課題や成長、キャリアなどについて対話する場として活用されます。
企業によって目的や進め方は異なりますが、部下の状況把握、問題の早期発見、成長支援、情報共有、信頼関係の構築などを目的として行われることがあります。
近年、日本企業でも1on1を導入する企業が増えています。
1on1が注目されるようになった背景
1on1の考え方が広く知られるようになった背景の一つに、シリコンバレー企業などで上司と部下が定期的に面談する文化が広がったことがあります。
インテルの元CEOであるアンドリュー・S・グローブ(Andrew S. Grove)は、1983年に刊行した『High Output Management』の中で、上司と部下が1対1で行うミーティングの重要性について述べています。
日本では同書の日本語版が1984年に刊行され、その後、2017年には日経BPから新たな日本語版が刊行されています。
グローブは1対1のミーティングを、部下から上司への情報共有や、問題について話し合うための重要な場として位置づけています。
日本ではその後、「1on1」という名称で、部下との定期的な対話を人材育成や組織マネジメントに活用する取り組みが広がっていきました。
1on1の主な目的
1on1には、さまざまな目的があります。
代表的なものとして、次のようなものが挙げられます。
・部下の仕事や状況を把握する
・困っていることや課題を確認する
・仕事上の問題について一緒に考える
・部下の成長を支援する
・キャリアについて話す
・上司と部下の情報共有を行う
・信頼関係を築く
1on1は「部下の成長支援だけを行う場」と説明されることもありますが、実際には、仕事の進捗や課題を確認したり、問題解決について話したりすることもあります。
重要なのは、単なる進捗確認だけで終わらせず、部下が考えていることや困っていることについて対話できる場にすることです。
1on1と人事評価面談の違い
1on1と人事評価面談は、目的が異なります。
人事評価面談では、一定期間の成果や行動について評価し、その結果を本人に伝えることが中心になります。
一方、1on1では、日々の仕事の状況や課題、本人が考えていることなどについて継続的に対話することが中心です。
そのため、1on1では評価を伝えることよりも、部下の話を聞き、必要に応じて問題解決や成長を支援することが重視されます。
ただし、1on1の中で仕事の進捗や成果について話してはいけないという意味ではありません。
仕事上の課題や成果について確認しながら、その背景にある本人の考えや悩みについて対話することも重要です。
1on1で重要なのは「部下に話してもらうこと」
1on1では、上司が長時間話し続けるのではなく、部下が自分の考えや状況について話せるようにすることが重要です。
上司が一方的にアドバイスや指示を続けると、部下にとっては通常の業務指示と変わらなくなってしまいます。
そのため、上司は質問をしたり、部下の話を聞いたりしながら、本人が考えていることを整理できるよう支援します。
例えば、次のような質問があります。
「今、仕事で困っていることはある?」
「その仕事を進めるうえで何が一番難しい?」
「どうすればうまく進められそう?」
「今後、どのような仕事に挑戦してみたい?」
こうした質問を通じて、上司から答えを与えるだけではなく、部下自身が考える機会をつくることができます。
1on1の質を高めるうえでは、「どのような質問をするか」だけでなく、その質問を相手がどのように受け取るかを考えることも重要です。
同じ質問でも、上司との関係性や聞き方によって、部下が率直に話せる場合もあれば、評価されているように感じて本音を話しにくくなる場合もあります。
日本経営心理士協会では、こうした質問、感情、信頼関係、モチベーションなどの心理を、マネジメントや人材育成に活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。
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1on1で部下の本音を引き出すために重要なこと
1on1を行えば、自動的に部下が本音を話してくれるわけではありません。
部下が「この話をすると評価が下がるのではないか」「否定されるのではないか」と感じていれば、当たり障りのない話しか出てこないこともあります。
そのため、日頃から話しやすい関係をつくることが重要です。
▽話を途中で否定しない
部下が話している途中で、「それは違う」「そんな考え方ではダメだ」と否定すると、その後、本音を話しにくくなることがあります。
まずは相手が何を考えているのかを最後まで聞いたうえで、必要に応じて意見を伝えることが重要です。
▽すぐに答えを教えすぎない
部下が悩みを話したとき、上司は経験があるため、すぐに解決策を教えたくなることがあります。
しかし、毎回答えを与えていると、部下自身が考える機会が少なくなる場合があります。
そこで、「あなたはどうしたらいいと思う?」「他に方法はありそう?」などと質問し、本人が考える機会をつくることも重要です。
▽相手の話を理解しようとする
1on1では、単に黙って話を聞けばよいわけではありません。
相手が何を伝えようとしているのかを理解しようとしながら聞くことが重要です。
例えば、「つまり、今一番困っているのは○○ということ?」と確認することで、認識のずれを防ぎやすくなります。
また、「それは大変だったね」といった形で、相手が感じていることを受け止めることも、話しやすい関係をつくるうえで役立つ場合があります。
1on1と心理的安全性
1on1と関連してよく使われる言葉に「心理的安全性」があります。
心理的安全性とは、チームの中で、質問や意見、失敗などについて発言しても、対人関係上の大きなリスクを負わないと感じられる状態を指します。
1on1によって上司と部下のコミュニケーション機会が増え、部下が相談しやすい関係が築かれれば、心理的安全性を支える一因になる可能性があります。
ただし、1on1を実施するだけで心理的安全性が高まるわけではありません。
1on1の場で否定されたり、そこで話した内容が本人の意図に反して周囲に広まったりすれば、かえって本音を話しにくくなることもあります。
重要なのは、面談の回数ではなく、普段からどのようなコミュニケーションが行われているかです。
1on1でよくある失敗
1on1を制度として導入しても、やり方によっては十分に機能しない場合があります。
▽上司ばかりが話している
1on1の時間のほとんどを上司が話していると、部下が自分の考えを整理したり、悩みを相談したりする機会が少なくなります。
上司が話すことが必要な場面もありますが、部下が話す時間を十分に確保することが重要です。
▽単なる進捗確認になっている
「この仕事はどこまで進んだ?」「いつ終わる?」という話だけで終わってしまうと、通常の業務管理とほとんど変わりません。
進捗確認を行う場合でも、「進めるうえで困っていることはないか」「何か支援できることはないか」など、本人の状況について話すことが重要です。
▽毎回同じ質問をする
「最近どう?」「困っていることある?」という質問だけを毎回繰り返していると、1on1が形式的になることがあります。
前回の話を覚えておき、「前回話していた○○はその後どうなった?」など、継続的な対話を行うことが重要です。
▽すぐにアドバイスする
部下が話した内容に対して、毎回すぐに「こうすればいい」と答えを出すと、部下が自分で考える機会を失う場合があります。
まずは本人がどのように考えているかを聞き、そのうえで必要な支援や助言を行うことが重要です。
1on1はどのくらいの頻度で行えばよいか
1on1は「週1回」「隔週」などの頻度で実施されることがありますが、すべての組織に適した決まった頻度があるわけではありません。
部下の人数、仕事内容、経験、組織の状況などによって適切な頻度は異なります。
新しい仕事を担当している部下や、上司とのコミュニケーション機会が少ない部下とは、比較的短い間隔で話した方がよい場合があります。
一方で、日常的に密なコミュニケーションが取れている場合には、頻度を下げても問題がないことがあります。
重要なのは、「毎週必ずやること」そのものではなく、必要なタイミングで継続的に対話できる仕組みをつくることです。
1on1を効果的に行うためのポイント
1on1を効果的に行うためには、面談の形式だけではなく、上司の関わり方が重要です。
例えば、次のような点を意識するとよいでしょう。
・部下が話す時間を十分に確保する
・相手の話を途中で否定しない
・すぐに答えを与えず、質問によって考えを整理してもらう
・前回の内容を踏まえて継続的に対話する
・必要に応じて具体的な支援を行う
・話した内容の扱いに配慮する
また、部下によって話しやすいテーマやコミュニケーションの取り方は異なります。
そのため、「この質問をすれば必ず本音が出る」といった決まった方法ではなく、相手の反応を見ながら関わり方を調整することが重要です。
1on1で重要なのは「面談の制度」より「対話の質」
1on1は、部下とのコミュニケーションを増やす有効な手段の一つです。
しかし、1on1という制度を導入すること自体が目的になってしまうと、「毎週30分話す」という形式だけが残り、十分な効果につながらない場合があります。
重要なのは、部下が何を感じ、何に悩み、どのように考えているのかを理解し、その人に合った関わりをすることです。
同じ質問でも、信頼している上司から聞かれる場合と、普段ほとんど話を聞いてくれない上司から聞かれる場合では、受け止め方が大きく変わることがあります。
そのため、1on1を機能させるには、質問のテクニックだけでなく、感情、信頼関係、価値観、モチベーションなど、人がどのような心理で行動するのかを理解することが重要です。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、相手の本音を引き出す質問の考え方や、感情と行動の関係、モチベーションが生まれる仕組みなどを、マネジメントや人材育成の実践に活かす方法を学びます。
1on1を単なる定期面談で終わらせず、部下の考えを理解し、成長や行動につながる対話にしていきたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







