暗黙知
暗黙知とは経験的知識とも呼ばれ、個人の経験や勘に基づくコツやノウハウなどの「主観的な知識」や「言語化が難しい知識」を指します。
ハンガリーの物理学者・社会学者であるマイケル・ポランニーによって、1966年に著書である「暗黙知の次元」の中で提唱されました。
主観的な側面が強い暗黙知は、捉え方も人それぞれになってしまうため、第三者に伝えようとしても正確に伝達することは「非常に困難である」という特徴があります。
暗黙知の具体例
特に人間の肉体的・身体的な部分は言語化が難しいことが多く、たとえば自転車の乗り方は一度説明しただけで再現することは非常に困難な経験的知識です。
マイケル・ポランニーも自書の中で「人間の顔を区別できること」や「自転車に乗れること」を暗黙知の具体例として紹介しており、経験や勘に基づいた周囲に言葉で伝えにくい知識、つまりは暗黙知だとしています。
形式知は暗黙知の対義語
暗黙知の反対の意味を持つ言葉として「形式知」があります。
形式知とは言語化が可能な知識であり、個人の経験に基づく主体的な知識を文章や図表を使って言語化し、客観的な知識として共有できる特徴があります。
たとえば、「業務マニュアル」「営業のトークスクリプト」などが形式知に該当します。
企業が暗黙知を放置するリスク
企業が暗黙知を放置しておくことで、「知識の継承」や「生産性」などの面で多くのリスクを抱えることになります。
▽知識を蓄積・継承できない
暗黙知は形式知と異なり、そのままの状態では「データ」や「マニュアル」として残すことが難しく、結果的にその内容を周囲に正確に伝えられません。
そのため、社員が時間をかけて獲得した知識であっても、社内に共有されず、暗黙知を持っている社員の退職や人事異動によって知識が蓄積・継承されず、最悪の場合、業務を円滑に行えなくなるリスクを孕んでいます。
▽業務の生産性の低下に繋がる
暗黙知は経験が長く、その業務に精通している社員が保有しているケースが多くなります。
そのため、暗黙知を有している社員が、他の社員に教える機会が必然的に多くなってしまいます。
もし「自身の業務を中断してでも周囲に教えなければならない」といった状況に陥ると、暗黙知を有する社員の生産性が低下し、結果的にはプロジェクトや組織全体の生産性の低下にも繋がってしまいます。
このように暗黙知を放置しておくことで多くの問題が生じてしまうため、暗黙知を放置せず、形式知に変換していくことが重要となります。
暗黙知を形式知に変換するナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントとは、個々人の暗黙知を形式知に変換し、貴重な経験的知識の共有や作業の効率化を行う経営手法を指します。
暗黙知を形式知に変換できれば、そのナレッジを他の社員も活用できるようになり、企業にとって「業務の属人化」を防ぐことができます。
さらにナレッジマネジメントを行うことで、暗黙知を持った人の異動や退職によって「会社からノウハウが消えてしまうリスク」を防ぐこともできます。蓄積された形式知は、業務経験から得た貴重なノウハウとして、会社組織の知的財産となります。
ナレッジマネジメントで役立つSECI(セキ)モデル
ナレッジマネジメントは、SECI(セキ)モデルと呼ばれるフレームワークを使って実践されることが一般的です。
SECI(セキ)モデルは、日本の経営学者である野中郁次郎氏によって提唱された経営理論であり、暗黙知を暗黙知に変えるために具体的な4つのプロセスに分かれています。
この4つのプロセスを繰り返すことで、経験的知識の蓄積や更新を進めることができます。
▽共同化(Socialization)
共同化とは、共同作業を通じて互いの暗黙知を共有し、相互理解を深めるプロセスです。
言葉だけでなく、身体や五感を使って表現しつつ、暗黙知を他者へ移転させます。
▽表出化(Externalization)
表出化とは、暗黙知を形式知に変えるプロセスです。
共同化で暗黙知を共有した相手と一緒に、言葉や図表、数式など適切な形式を使って暗黙知を形式知としてアウトプットします。
▽連結化(Combination)
連結化とは、共同化・表出化によって生まれた形式知を他の形式知と結びつけて、新しい知識を形成するプロセスです。
これにより個人単位ではなく、組織全体の財産として形式知を活用できるようになります。
▽内面化(Internalization)
内面化とは、連結化によって形成された形式知が、別の暗黙知に変わるプロセスです。
これまでのプロセスで得られた知識が、社員の中で別の新しい暗黙知として蓄積されていきます。
そこで再び、共同化→表出化→連結化→内面化を繰り返すことで、永続的に知識を企業内に蓄積することができます。
ナレッジマネジメントの注意点やコツ
暗黙知は主観的な知識であり、言語化が難しいという特徴があるため、形式知化に当たって注意点やコツがあります。
▽形式的なものにしてはいけない
多くの組織で業務マニュアルが作られていますが、実際の運用とは内容がかけ離れているケースも多く存在します。
つまり、暗黙知を形式知に変換する作業は、部下任せで勝手に遂行されるものではなく、「なぜその作業をする必要があるのか?」といった理由や重要性を当事者に十分に理解させる必要があります。
そのためには普段の作業と同様に、形式知化が「企業活動において重要である」というメッセージを経営層から送る必要があります。
▽紙の書類化では埋もれてしまう
ノウハウを保存する手段として、マニュアルなどの書類にまとめるのは形式知化の代表的な例です。
しかし、書類の量が多くなってしまうと肝心な時に必要なノウハウ探しに時間がかかってしまいます。
特に業種によっては、ナレッジの管理を紙ベースで行っている企業もまだまだ存在します。
紙ベースの書類管理では物理的な制限が大きく、その書類が存在する場所まで取りに行かなければ閲覧できないなど、保管する場所の問題も出てきます。
そのため、もし現行で紙ベースの管理を行っている場合は、デジタル化を進めることでこれらの問題を解消し、ナレッジの効率的な運用を目指すことが重要です。
▽動画を作ることで理解が加速する
文章だけで伝えるよりも、動画を作ることで内容を理解しやすくなります。
さらに文章や図表だけでは説明が困難な部分(例:製造技術など)も、簡単に記録でき、後から繰り返し再生して覚えることができます。
ナレッジマネジメントで企業の成長を加速させよう
暗黙知をそのまま放置してしまうと、業務の属人化や生産性の低下など、ビジネスにおいてさまざまなデメリットを生んでしまいます。
そこで、ナレッジマネジメントを活用して、業務上の経験で得た知識の継承や作業の効率化を行うことが重要です。
ナレッジマネジメントにおける形式知化の方法としては、文章や図表、数式などを使って業務マニュアルを作成する方法が一般的です。
今後は全国的に5G回線が整備されるため、動画や音声も形式知化の手段の一つとして活用できます。
ナレッジマネジメントによって、暗黙知を形式知に変えることで、企業価値の向上やライバルとの差別化を果たし、企業の成長を加速させましょう。
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