レピュテーションリスク
レピュテーションリスクとは、企業や組織に対する評判・信用が低下することによって、売上、採用、取引、資金調達、企業価値などに悪影響が生じるリスクを指します。
「reputation」は、評判、評価、信用などを意味します。
企業活動では、商品やサービスの品質だけでなく、不祥事、従業員の言動、SNS上の投稿、顧客対応、情報漏えい、広告表現など、さまざまな出来事が企業の評判に影響します。
また、実際に重大な問題が起きた場合だけでなく、事実関係が十分に確認されていない情報や誤解が広がることで、評判が低下する場合もあります。
そのため、レピュテーションリスク管理では、問題そのものを防ぐことに加え、問題が起きた際にどのように説明し、対応するかも重要になります。
レピュテーションリスクが経営に与える影響
企業の評判が低下すると、さまざまな経営上の影響が生じる可能性があります。
例えば、次のようなものです。
・商品やサービスの売上低下
・既存顧客の離反
・新規顧客の獲得難易度の上昇
・取引先との関係悪化
・採用応募者の減少
・従業員の離職
・株価や企業価値への影響
・金融機関や投資家からの評価低下
企業の信用は、長い時間をかけて築かれる一方、一度の重大な問題によって大きく損なわれる場合があります。
特にSNSが普及した現在では、企業に関する情報が短時間で広く共有されるため、対応の遅れが評判への影響を拡大させる可能性があります。
レピュテーションリスクが発生する主な原因
レピュテーションリスクは、一つの原因だけで生じるものではありません。
さまざまな出来事が企業の評判に影響します。
▽商品・サービス上の問題
品質不良、製品事故、表示の誤りなどが起きた場合、企業への信頼が低下することがあります。
問題そのものに加え、発生後の説明や対応が不十分な場合には、評判への影響がさらに大きくなる可能性があります。
▽不祥事・法令違反
粉飾決算、データ改ざん、ハラスメント、贈収賄、個人情報の不適切な取り扱いなどは、企業への信用を大きく損なう可能性があります。
特に、「会社として問題を把握していたのに放置していた」と受け取られると、組織全体への信頼低下につながる場合があります。
▽従業員の行動
従業員のSNS投稿や店舗内での不適切な行為などが、企業の評判に影響することがあります。
本人は個人的な行動のつもりでも、勤務先が特定されれば、企業全体の問題として受け取られる場合があります。
▽顧客対応
商品そのものに問題がなくても、問い合わせや苦情への対応が不適切であれば、企業への不信感につながることがあります。
特に、顧客の不満に対して説明を避けたり、責任を押し付けたりすると、問題が拡大する可能性があります。
▽情報漏えい・サイバー事故
顧客情報や機密情報の漏えいは、直接的な損害だけでなく、「この会社に情報を預けても大丈夫なのか」という信用問題につながります。
レピュテーションリスクとSNS
SNSの普及によって、レピュテーションリスクの広がり方は大きく変化しています。
以前であれば限られた範囲でしか知られなかった出来事でも、写真や動画、投稿などを通じて短時間で多くの人に知られることがあります。
また、一度拡散された情報は、投稿を削除したとしても、スクリーンショットや転載などによって残り続ける場合があります。
そのため企業には、問題が起きてから対応するだけでなく、日頃から従業員への教育やSNS利用ルール、問題発生時の対応フローなどを整えておくことが求められます。
不適切なSNS投稿の事例
日本では、従業員やアルバイト従業員による不適切な写真・動画の投稿が企業の評判に影響した事例があります。
例えば、2013年には、宅配ピザチェーン「ピザーラ」の店舗で、従業員が厨房内で不適切な行為を行った写真がSNSに投稿され、問題となりました。
この店舗を運営していたフランチャイズ企業は、その後事業を停止し、2015年頃に破産手続きに入ったと報じられています。
ただし、その企業の経営悪化について、SNS上の一件だけが唯一の原因だったと断定することは適切ではありません。
重要なのは、一人の従業員による行動であっても、企業ブランド全体の信用に影響する可能性があるという点です。
レピュテーションリスクは、制度やルールだけでは防ぎきれない場合があります。
従業員が「なぜこの行動が問題になるのか」「自分の行動が顧客や会社にどのような影響を与えるのか」を理解し、自ら適切に判断できることも重要です。
日本経営心理士協会では、こうした人の感情、価値観、判断、組織内コミュニケーションの心理を、経営やマネジメントに活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。
2015年の開講以来、のべ10,000名以上の方が受講されています。
オリンパスの事例
企業の信用が大きく揺らいだ代表的な事例の一つとして、オリンパスの損失隠し問題があります。
2011年、月刊誌『FACTA』が、オリンパスによる過去の企業買収などに関する疑問を報じました。
当時の社長マイケル・ウッドフォード氏は、その記事の内容を知り、過去の買収案件などについて調査を求めました。
その後、長年にわたる損失の隠蔽が明らかになり、経営陣の責任や企業統治の問題が大きく問われました。
この問題によって、オリンパスは社会的信用や株式市場からの評価に大きな影響を受けました。
この事例は、問題を隠すことによって、一時的には表面化を避けられたとしても、後に発覚した際の信用低下が非常に大きくなる可能性を示しています。
問題そのものより「その後の対応」が評判を左右することもある
どの企業でも、ミスや事故を完全にゼロにすることは難しい場合があります。
そのため、問題を起こさないことだけでなく、問題が発生した後の対応も重要です。
例えば、問題が起きたときに、事実関係を迅速に確認し、必要な情報を説明し、被害を受けた人への対応や再発防止策を示すことで、信頼回復につながる場合があります。
一方で、事実を隠したり、責任を他者へ押し付けたり、説明を何度も変更したりすると、「何かを隠しているのではないか」という不信感が強まることがあります。
そのため、危機対応では、情報の正確性、説明の一貫性、対応の速さなどが重要になります。
事実ではない情報による評判低下
レピュテーションリスクは、企業側に実際の不祥事があった場合だけに生じるわけではありません。
誤情報、デマ、誤解などによって評判が低下することもあります。
SNSでは、断片的な情報だけが拡散され、実際とは異なる印象が形成される場合があります。
このような場合には、感情的に反論するのではなく、事実関係を確認し、必要に応じて正確な情報を提示することが重要です。
一方で、すべての批判に反応すると、かえって話題を大きくしてしまう可能性もあります。
内容の重大性や拡散状況などを見ながら対応する必要があります。
レピュテーションリスクとステルスマーケティング
企業の広告・宣伝方法も、評判に影響することがあります。
例えば、企業から報酬や商品の提供を受けているにもかかわらず、あたかも一般消費者の自主的な口コミであるかのように宣伝するステルスマーケティングです。
日本では、2023年10月1日から、広告であることを隠したステルスマーケティングが、景品表示法上の不当表示の対象となっています。
広告であることを隠して第三者の口コミのように見せれば、一時的に信頼を得られる可能性があります。
しかし、それが明らかになれば、「消費者をだました」という印象を持たれ、企業の信用を損なう可能性があります。
そのため、マーケティングでも短期的な反応だけでなく、長期的な信用を考えることが重要です。
レピュテーションリスクを防ぐために
レピュテーションリスクを完全になくすことは困難ですが、発生可能性や影響を小さくするための対策はできます。
▽リスクとなる行動を洗い出す
まず、自社ではどのような問題が評判低下につながる可能性があるのかを整理します。
例えば、品質、接客、法令遵守、個人情報、SNS利用、広告表現などです。
業種によって重要なリスクは異なります。
▽問題を報告しやすい組織をつくる
現場で問題が起きていても、「報告したら怒られる」と感じていると、社員が問題を隠す可能性があります。
問題が小さい段階で報告されれば対応できたものが、隠されたことで重大な問題になることもあります。
そのため、問題を早期に報告できる環境を整えることが重要です。
▽危機対応のルールを決めておく
問題が起きてから「誰が対応するのか」を考えていると、初動が遅れる場合があります。
広報、経営陣、法務、現場など、誰がどのように連携するのかを事前に決めておくことが重要です。
▽事実確認を優先する
SNSで批判が広がった場合、すぐに反論したくなることがあります。
しかし、十分に事実を確認しないまま発信すると、後から説明を修正する必要が生じ、かえって信用を損なう可能性があります。
迅速さと正確性の両方を意識して対応する必要があります。
従業員教育だけで防げるわけではない
レピュテーションリスク対策として、従業員研修を実施する企業もあります。
研修によって、SNS利用やコンプライアンスの注意点を理解してもらうことは重要です。
一方で、「研修を実施したから問題は起きない」と考えることはできません。
職場の文化や上司の行動、評価制度などが、社員の行動に影響することもあります。
例えば、売上目標だけを強く求め、手段について十分に確認しない組織では、社員が不適切な行動を取るリスクが高まる場合があります。
ルールを教えるだけでなく、日々のマネジメントや組織風土も含めて考える必要があります。
「炎上させないこと」だけがレピュテーション管理ではない
レピュテーションリスクというと、「SNSで炎上しないようにすること」と考えられがちです。
しかし、企業の評判は日頃の顧客対応、従業員との関係、取引先とのやり取り、商品やサービスの品質などの積み重ねによって形成されます。
問題が起きたときだけ広報対応を行うのではなく、日頃から信用を積み重ねることが重要です。
また、企業自身が「当社は信頼できる会社です」と発信するだけで信用が形成されるわけでもありません。
実際の行動と発信内容が一致していることが重要です。
レピュテーションリスクの本質は「信頼」にある
レピュテーションリスクを考えるうえで重要なのは、企業の評判が単なるイメージではなく、人々の「この会社を信頼してよいか」という判断と深く関係していることです。
顧客は「この商品を買って大丈夫か」、取引先は「この会社と取引して大丈夫か」、従業員は「この会社で働き続けて大丈夫か」と判断しています。
そして、その判断は、問題が起きたときの企業の行動によって大きく変わる場合があります。
ルールやマニュアルを整えることは重要ですが、最終的に行動するのは人です。
「問題を隠したくなる」「責任を認めたくない」「批判されたので感情的に反論したい」といった心理が、危機対応を誤らせることもあります。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、人がどのようなときに信頼を感じ、何によって不信感を持ち、感情や組織環境が行動にどのような影響を与えるのかを理解し、経営やマネジメントに活かす方法を学びます。
レピュテーションリスクを単なる広報上の問題としてではなく、人や組織の行動から生まれる「信頼の経営」として考えたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







