クリティカルシンキング
クリティカルシンキング(critical thinking)とは、目の前の情報や自分の考えをそのまま受け入れるのではなく、「本当にそうなのか」「根拠は十分か」「別の見方はないか」と問い直しながら、より妥当な判断を目指す思考法です。
日本語では「批判的思考」と訳されます。
ただし、「批判的」という言葉から、相手の意見を否定したり、欠点を探したりすることだと誤解されることがあります。
クリティカルシンキングで重要なのは、相手を批判することではなく、情報や前提、論理、根拠を吟味することです。
また、他人の意見だけでなく、自分自身の考えや思い込みも検討の対象になります。
クリティカルシンキングで考えること
クリティカルシンキングでは、例えば次のような問いを持ちながら考えます。
・その情報の根拠は何か
・事実と意見が混ざっていないか
・前提になっている考えは正しいか
・別の原因や解釈はないか
・反対の証拠はないか
・情報源は信頼できるか
・結論までの論理に飛躍はないか
こうした問いを持つことで、最初に思いついた結論や、周囲で一般的に信じられている考えをそのまま採用するのではなく、より多面的に検討しやすくなります。
ロジカルシンキングとの違い
クリティカルシンキングと比較されることが多いものに、ロジカルシンキングがあります。
ロジカルシンキングは、情報を整理し、筋道を立てて考えることを重視する思考法です。
一方、クリティカルシンキングでは、その論理の前提自体が妥当なのかを問い直します。
例えば、次のような議論があったとします。
「売上が落ちた。営業担当者の行動量も減っている。だから、営業件数を増やせば売上は戻るはずだ」
この考え方には一定の論理があります。
しかし、クリティカルシンキングでは、さらに次のように問い直します。
「売上低下の原因は本当に営業件数なのか」
「市場そのものが縮小していないか」
「競合の商品が強くなっていないか」
「成約率が低下している可能性はないか」
「顧客ニーズが変化していないか」
つまり、ロジカルシンキングが「筋道が通っているか」を見るのに対し、クリティカルシンキングは「その筋道を支える前提まで妥当か」を検討する点に特徴があります。
「事実」と「解釈」を分ける
クリティカルシンキングで重要なことの一つが、「事実」と「解釈」を分けることです。
例えば、会議で部下が一度も発言しなかったとします。
「会議中に発言しなかった」というのは、確認できる事実です。
一方で、「やる気がない」「仕事に関心がない」というのは、その事実に対する解釈です。
実際には、発言するタイミングをつかめなかった、自信がなかった、事前情報が不足していたなど、別の理由があるかもしれません。
事実と解釈を混同すると、一つの出来事から必要以上に強い結論を出してしまう可能性があります。
「相関」と「因果」を混同しない
ビジネスでは、二つの数字が同時に動いていることから、「一方がもう一方の原因だ」と考えてしまうことがあります。
しかし、相関関係があることと、因果関係があることは同じではありません。
例えば、「社員満足度の高い会社ほど業績が高い」というデータがあったとしても、それだけで「社員満足度を高めれば必ず業績が上がる」とは言えません。
業績が良いから待遇を改善しやすく、その結果として満足度が高い可能性もあります。
また、優れた経営や組織文化など、第三の要因が両方に影響している可能性もあります。
クリティカルシンキングでは、「一緒に変化している」という事実と、「原因と結果である」という結論を区別して考えることが重要です。
経営にクリティカルシンキングが必要な理由
経営では、正解が分からない状況で意思決定を行うことが多くあります。
市場の将来、顧客ニーズ、競合の動き、新規事業の成功可能性などを、完全に予測することはできません。
そのため、限られた情報から仮説を立てて判断する必要があります。
このとき、自分が最初に考えた仮説だけを正しいと思い込むと、重要な情報を見落とす可能性があります。
「他にどのような可能性があるか」「自分の仮説が間違っているとしたら、どのような事実があるか」と問い直すことで、判断の幅を広げることができます。
経営やマネジメントでは、「自分では客観的に判断している」と思っていても、過去の成功体験、感情、立場、思い込みなどが判断に影響することがあります。
だからこそ、論理的な分析だけでなく、人がなぜ特定の情報を信じ、どのような感情や認知によって判断が偏るのかを理解することも重要です。
日本経営心理士協会では、こうした認知や感情、意思決定の心理を、経営・マネジメント・営業などに活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。
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自分の前提を疑う
人は何かを考える際、無意識のうちに多くの前提を置いています。
例えば、「若い人は電話営業を嫌う」「価格を下げれば売上が伸びる」「優秀な営業担当者は管理職にも向いている」といった考えです。
これらが事実である場合もありますが、常に正しいとは限りません。
クリティカルシンキングでは、「なぜそう考えているのか」「その前提にはどのような根拠があるのか」を確認します。
過去には正しかった前提でも、市場や技術、顧客の行動が変化すれば、現在は当てはまらないこともあります。
「常識」を疑う
業界で長く続いている習慣は、「そうするのが当たり前」と考えられやすくなります。
しかし、その方法が現在も最適とは限りません。
例えば、「営業は必ず対面でなければならない」「管理職は部下の勤務状況を細かく把握する必要がある」など、以前は合理的だった考えが、環境の変化によって見直されることがあります。
クリティカルシンキングでは、「なぜこの方法を続けているのか」「別の方法ではだめなのか」と問い直します。
ただし、常識だから間違っているという意味ではありません。
長く続いている方法には合理的な理由がある場合もあるため、その理由を確認したうえで判断することが重要です。
数字だから正しいとは限らない
データや数字を見ることは、意思決定において重要です。
しかし、数字が示されているだけで、その結論が正しいとは限りません。
例えば、「顧客満足度90%」という数字があったとしても、次のような点を確認する必要があります。
・何人を調査したのか
・誰を対象にしたのか
・どのような質問をしたのか
・回答しなかった人はどの程度いるのか
・「満足」をどのように定義したのか
同じデータでも、調査方法や母集団によって意味は変わります。
数字そのものだけでなく、「どのように作られた数字なのか」を見ることが重要です。
情報源を確認する
インターネットやSNSでは、多くの情報に簡単にアクセスできます。
その一方で、出典が不明な情報や、内容が誇張されている情報もあります。
情報を見る際には、例えば次のような点を確認します。
・誰が発信しているのか
・一次情報はどこにあるのか
・いつの情報なのか
・どのような調査方法なのか
・発信者に利害関係がないか
・他の信頼できる情報と一致しているか
特に、驚くような数字や、自分の考えに強く一致する情報ほど、出典を確認することが重要です。
「専門家が言っているから正しい」とは限らない
専門家の知識や経験は、重要な判断材料です。
一方で、専門家であっても常に正しいとは限りません。
専門分野の外について発言している場合もありますし、同じ分野の専門家でも意見が分かれることがあります。
また、研究によって結果が異なることもあります。
そのため、「有名な人が言っている」という理由だけで判断するのではなく、その主張を支える根拠まで確認することが重要です。
反対意見を考える
自分の考えを検証する方法の一つに、意識的に反対意見を考える方法があります。
例えば、「新しい店舗を出すべきだ」と考えている場合には、あえて「出店しない方がよい理由」を考えます。
すると、最初には見えていなかったリスクが見つかることがあります。
逆に、「出店すべきではない」と考えている場合には、「出店した方がよい理由」を考えます。
一方だけの情報を集めるよりも、両方の可能性を検討することで、判断の質を高めやすくなります。
「なぜ?」を繰り返せばよいわけではない
問題の原因を深掘りするために、「なぜ?」を繰り返す方法が使われることがあります。
これは原因を考えるうえで有効な場合がありますが、必ず一つの原因にたどり着くとは限りません。
例えば、売上低下の原因には、営業活動、価格、商品力、市場環境、競合など複数の要因が同時に関係している場合があります。
「なぜ」を繰り返して一つの原因だけを特定すると、本来の複雑な構造を見落とす可能性があります。
複数の仮説を持ちながら検討することが重要です。
クリティカルシンキングと確証バイアス
クリティカルシンキングで特に注意したい心理の一つが「確証バイアス」です。
確証バイアスとは、自分の考えを支持する情報に注目しやすく、それに反する情報を軽視する傾向です。
例えば、新しい事業を成功させたいと思っていると、成功事例ばかりを調べ、撤退事例を十分に確認しないことがあります。
そのため、「自分の考えが正しいことを証明する情報」だけでなく、「自分の考えが間違っている可能性を示す情報」も意識的に探すことが重要です。
クリティカルシンキングは決断を遅らせるためのものではない
あらゆる可能性を疑い続けると、いつまでも結論を出せなくなることがあります。
しかし、クリティカルシンキングの目的は、すべてを疑い続けることではありません。
限られた情報の中で、重要な前提や根拠を確認し、現時点でより妥当な判断をすることが目的です。
ビジネスでは、完全な情報がそろうまで待てないことも多くあります。
そのため、「何が分かっているか」「何がまだ分かっていないか」「どの程度のリスクなら受け入れるか」を整理したうえで、判断することが必要です。
部下にクリティカルシンキングを求める際の注意点
上司が「もっと疑って考えてほしい」と部下に求めても、組織の雰囲気によっては難しい場合があります。
例えば、上司の意見に反対すると否定されたり、評価を下げられたりする職場では、部下は疑問を持っていても発言しにくくなります。
クリティカルシンキングを組織で活かすには、「それは本当に正しいのでしょうか」と質問できる環境も重要です。
上司自身が反対意見を受け入れ、自分の考えも検証の対象にする姿勢を持つ必要があります。
クリティカルシンキングは「相手を論破する力」ではない
クリティカルシンキングを身につけると、相手の論理の弱い部分に気づきやすくなります。
しかし、それを相手を論破するためだけに使うと、対話が難しくなることがあります。
特に、部下や顧客とのコミュニケーションでは、論理的に正しい指摘をしても、相手が否定されたと感じれば、その後の協力を得にくくなることがあります。
重要なのは、「相手の間違いを見つけること」ではなく、より良い判断や結論に近づくことです。
そのためには、問い方や伝え方にも配慮する必要があります。
良い意思決定には「考える力」と「人の心理」の両方が必要
クリティカルシンキングは、経営やビジネスの判断をより妥当なものにするための重要な思考法です。
しかし、人は論理だけで判断しているわけではありません。
自分が進めてきた事業を否定したくない、部下に反対されたくない、顧客から断られたくないといった感情が、情報の受け止め方に影響することがあります。
また、正しい分析結果を持っていても、それを相手にどう伝えるかによって、実際の行動は変わります。
そのため、経営やマネジメントでは、「何が論理的に妥当か」を考える力と同時に、「人はなぜそのように判断し、どうすれば納得して行動するのか」を理解することも重要です。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、認知の偏り、感情、価値認知、質問、意思決定など、人の心理を理解し、経営判断・マネジメント・営業に活かす方法を学びます。
論理的に考えるだけでなく、自分自身の思い込みや相手の心理まで踏まえて、より質の高い判断とコミュニケーションを行いたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







