ダイアローグ
ダイアローグ(dialogue)とは、「対話」を意味する言葉です。
組織やビジネスにおけるダイアローグとは、単に会話を交わすことではなく、互いの考えや価値観、前提を尊重しながら対話し、相互理解を深めていくコミュニケーションを指します。
自分の考えを一方的に伝えたり、相手を説得したりすることを目的とするのではなく、互いの考えを持ち寄り、問いかけ、聴き合うことによって、それまで気づかなかった視点や考え方を見つけていくことが特徴です。
ダイアローグでは、「どちらの意見が正しいか」をすぐに決めることよりも、相手がなぜそのように考えているのかを理解し、自分自身の考えや前提についても見つめ直すことを重視します。
その結果、新たな視点や共通理解が生まれ、よりよい判断や行動につながることがあります。
ダイアローグと雑談・議論の違い
ダイアローグは、雑談や議論とは目的が異なります。
雑談は、必ずしも特定の目的やテーマを必要とせず、会話そのものを楽しんだり、人間関係を築いたりするために行われます。
一方、議論(discussion)では、それぞれが意見を提示し、比較・検討しながら、結論や意思決定を目指すことがあります。
これに対してダイアローグでは、相手の意見をすぐに評価したり、自分の意見を通そうとしたりするのではなく、それぞれの考えの背景にある前提や価値観にも目を向けます。
例えば、意見が対立したときに、
「どちらが正しいか」
と考えるだけではなく、
「なぜそのように考えているのか」
「自分とは何が違うのか」
「この違いから何を学べるのか」
と考えながら対話を続けていきます。
そのため、ダイアローグでは必ずしもその場で結論を出す必要はありません。
相互理解を深め、新たな視点や共通理解を形成すること自体に大きな意味があります。
ダイアローグが組織に必要な理由
現在では、業務上の指示や報告、情報共有の多くをメールやチャットで行うことができます。
一方で、文字による情報伝達だけでは、その人がなぜそのように考えているのか、どのような経験や価値観を背景に持っているのかまで理解することが難しい場合があります。
ダイアローグを行うことで、単なる情報の伝達を超えて、互いの考え方や問題意識について理解を深めることができます。
例えば、ある新しい施策について意見が分かれた場合でも、
「賛成か反対か」
という二択だけで話を進めるのではなく、
「なぜそう考えるのか」
「何を懸念しているのか」
「どのような経験からそう判断したのか」
を互いに話すことで、表面的な意見の違いの背景にある考えを理解できるようになります。
その結果、それまで見えていなかった問題や、新しい選択肢が見つかることがあります。
ダイアローグは組織学習にもつながる
組織におけるダイアローグの大きな意味の一つが、メンバー同士が互いの知識や経験、考え方を共有できることです。
一人ひとりが持っている情報や経験は異なります。
営業担当者には顧客との接点から得た情報があり、現場担当者には業務を実際に行う中で得た知識があり、経営者や管理職には組織全体を見る立場から得られる情報があります。
それぞれが自分の立場だけで考えていると、見える範囲には限界があります。
ダイアローグによって異なる立場からの意見を持ち寄ることで、一人では気づかなかった問題や可能性を発見できることがあります。
そのため、ダイアローグは組織が学習し、変化していくためのコミュニケーションの一つとして活用されています。
ダイアローグには心理的安全性が重要
ダイアローグを機能させるためには、参加者が率直に意見を言える環境が重要です。
例えば、
「こんなことを言ったら評価が下がるかもしれない」
「上司と違う意見を言ったら怒られるかもしれない」
「間違ったことを言ったら恥ずかしい」
と感じる環境では、本音や異なる意見が出にくくなります。
そのため、ダイアローグを行う際には、立場や役職にかかわらず意見を言うことができ、異なる意見を述べても否定されたり不利益を受けたりしないという安心感が重要です。
異なる意見が出ることを「対立」と考えるのではなく、「別の視点を知る機会」と考えることが、ダイアローグを成立させるうえで大切です。
組織の中で人がどのような心理から発言を控え、どのような関わりによって本音を話すようになるのかを理解することは、組織づくりやマネジメントにおいて重要です。
日本経営心理士協会では、人の心理を理解し、人材育成・組織づくり・コミュニケーションなどに活かす「経営心理学」を体系化しています。
ダイアローグの進め方
ダイアローグには必ず一つの決まった方法があるわけではありませんが、よりよい対話を行うためには、いくつか意識したいポイントがあります。
1.話しやすい雰囲気をつくる
参加者が緊張している状態では、率直な意見が出にくくなります。
いきなり本題に入るのではなく、簡単な会話から始めたり、参加者全員が発言できるようにしたりして、話しやすい雰囲気をつくります。
また、「異なる意見を否定しない」「発言者ではなく内容について考える」といった基本的なルールを共有しておくことも有効です。
2.テーマを共有する
ダイアローグでは必ずしも結論を決めておく必要はありませんが、何について話すのかというテーマは共有しておく方が対話を進めやすくなります。
例えば、
「私たちはどのような組織をつくりたいのか」
「なぜこの問題が繰り返し起きるのか」
「顧客にとって本当に価値のあるサービスとは何か」
といった問いをテーマにすることで、それぞれの考えを引き出すことができます。
3.それぞれが自分の考えを話す
まず、それぞれが自分の考えや経験を率直に話します。
このとき重要なのは、一部の人だけが長く話し続けたり、立場の強い人の意見だけで話が進んだりしないようにすることです。
発言が少ない人にも意見を求めるなど、できるだけ多様な考えが共有されるようにします。
相手を理解するために聴く
ダイアローグで特に重要なのが、相手の話を「反論するため」に聴くのではなく、「理解するため」に聴くことです。
自分と異なる意見を聞くと、人はすぐに
「それは違う」
「自分の方が正しい」
と判断したくなることがあります。
しかし、ダイアローグでは、その判断をいったん脇に置き、
「なぜそのように考えているのですか」
「そう感じた背景には何がありますか」
「もう少し詳しく教えてもらえますか」
と問いかけながら、相手の考えを理解していきます。
重要なのは、相手の意見に必ず同意することではありません。
賛成できない意見であっても、なぜ相手がそう考えるのかを理解することです。
自分自身の前提にも目を向ける
ダイアローグでは、相手の考えを理解するだけでなく、自分自身が当然だと思っている考え方にも目を向けます。
例えば、
「部下は上司の指示に従うものだ」
「営業は売上を最優先すべきだ」
「仕事は会社で行うべきだ」
といった考えを、自分では当然のことだと思っている場合があります。
しかし、他の人と対話すると、異なる考え方に触れることがあります。
そのときに、「相手がおかしい」と考えるだけではなく、
「自分はなぜこれを当然だと思っているのだろう」
と自分自身の前提を見直すことによって、新しい視点を得られることがあります。
対話から新しい発見を生み出す
ダイアローグの価値の一つは、参加者の誰かが最初から持っていた答えを選ぶことだけではなく、対話を通じて新しい考えが生まれる可能性があることです。
Aという意見とBという意見があったとき、どちらか一方を選ぶだけではなく、
「AとBを組み合わせることはできないか」
「そもそも別の考え方はないか」
と考えることで、Cという新しい選択肢が生まれることがあります。
また、他者から質問を受けることで、自分自身でも言葉にできていなかった考えや感情に気づくことがあります。
このように、ダイアローグは相互理解だけでなく、問題の捉え直しや新しい発想につながる可能性があります。
ファシリテーターを置く方法もある
人数が多い場合や、参加者同士の立場に差がある場合には、ファシリテーターを置く方法もあります。
ファシリテーターとは、特定の意見を支持するのではなく、対話が円滑に進むよう支援する進行役です。
例えば、
・特定の人だけが話し続けないようにする
・発言が少ない人に問いかける
・議論が勝ち負けの応酬になった場合に軌道修正する
・相手の発言を否定せずに問い直す
・対話のテーマに戻す
といった役割を担います。
ただし、小規模なチームなどでは、必ずしもファシリテーターを置く必要はありません。
参加者自身が対話の目的やルールを共有していれば、日常的なミーティングの中でもダイアローグを行うことができます。
ダイアローグをマネジメントに活かす
ダイアローグは、会議だけでなく、日常のマネジメントにも活用できます。
例えば、部下が上司の指示通りに動かなかった場合、
「なぜ言った通りにやらなかったのか」
と問い詰めるだけでは、部下は自分を守るための説明をするようになる可能性があります。
一方で、
「どのように考えてこの判断をしたのですか」
「仕事を進める中で、どのようなことが気になりましたか」
と問いかければ、上司が把握していなかった事情や問題が分かることがあります。
そこから、上司自身の指示の出し方に問題があったことや、業務上の新しい課題が見つかる場合もあります。
ダイアローグでは、相手を変えることだけを目的とせず、相手との対話を通じて、自分自身の考えや行動も見直すという姿勢が重要です。
経営心理学から見るダイアローグ
経営心理学の観点から見ると、ダイアローグで重要なのは、単に会話の回数を増やすことではありません。
人は、自分の意見を否定されると感じると、防御的になったり、本音を話さなくなったりすることがあります。
一方で、
「自分の考えを理解しようとしてくれている」
「自分の意見にも価値があると思ってくれている」
と感じることで、より率直に考えを話しやすくなります。
そのため、ダイアローグでは、質問の仕方、相手の話を聴く姿勢、否定の仕方、感情への配慮などが重要になります。
また、上司と部下など立場に差がある場合には、上司が「自由に意見を言ってほしい」と言うだけでは十分ではありません。
部下が異なる意見を言ったときに、上司がどのような表情や言葉で反応するかによって、「本当に言っても大丈夫なのか」が判断されます。
つまり、ダイアローグを生み出すためには、対話の技術だけでなく、人がどのような心理状態のときに本音を話し、どのような関わりによって心を閉ざすのかを理解することが重要です。
ダイアローグから学べること
ダイアローグとは、単に会話をすることではなく、互いの考えや前提を尊重しながら対話し、相互理解や新しい意味を生み出していくコミュニケーションです。
組織の中では、役職、部署、経験、価値観などの違いによって、同じ出来事を見ても異なる考えを持つことがあります。
その違いを排除するのではなく、対話によって互いの考えを理解することで、新しい問題の捉え方や解決策が生まれる可能性があります。
重要なのは、自分の意見を通すことだけを目的にするのではなく、相手を理解し、自分自身の前提にも目を向けながら「共に考える」という姿勢です。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、人がどのような心理によって本音を話したり、意見を控えたりするのかを理解し、対話、人材育成、組織づくり、マネジメントなどに活かす方法を体系的に学びます。
人の心理を理解し、相手との関係を深めながら人や組織を動かすコミュニケーションを身につけたい方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







