MBO(目標管理)
MBOとは「Management By Objectives」の略で、日本語で「目標管理」と訳されます。
組織マネジメントの手法の一つで、1950年代に「経営学の父」と呼ばれた経営学者であるピーター・F・ドラッカーが著書『現代の経営』の中で示した概念です。
MBOの手法においては、会社と社員の目標をリンクさせつつ、社員が自主的に目標を設定し、実行や進捗管理を行っていきます。
この方法により、ノルマや目標を上司から押し付けられた場合と比べて、「やらされている感」が少なくなるという特徴があります。
さらに通常の成果主義では、景気が低迷する情勢の日本において成果の達成がどうしても難しくなり、「正当な評価を得られない」という理由から社員がモチベーションを保てない問題が起こってしまいます。
しかしMBOでは、成果のみならず、そこに至るまでの過程や行動も評価項目に組み込み、多角的に評価を行うので、こうした不平等感を解消することが期待できます。
日本では1980年代から導入され始め、現在では大企業の約8割で実施されています。
主に人事評価で用いられることが多く、本人と上司が合意の上で、業務に対する目標を設定し、一定期間ごとに達成度を評価する制度として活用されています。
MBOが日本に広まった背景
日本にMBOが広まった1980年代は、バブル経済の崩壊によって多くの企業が倒産する中で、残された企業も人件費の削減や給与制度の見直しに追われていました。
そこで、これまで主流だった年功序列による人事制度を見直し、成果主義を導入することで無駄な人件費の抑制や業績の向上が試みられたのです。
日本の企業で運用されていた年功序列制度は、年齢によって給料が増えていく仕組みであったため、社員の成果やパフォーマンスに関係なく、人件費が増え続けるという問題がありました。
その結果、導入された成果主義の中でも、MBOによる人事評価は人件費を抑えつつ、業績を伸ばすことができる人事ツールとして特に注目されました。
MBOの運用方法
実際にMBOを運用するには、以下の4ステップで行います。
▽ステップ①:目標を作成する
MBOで一番重要なポイントは、社員自身が目標を作成することです。
ただし、企業に属している以上、企業の目標達成に貢献する内容にする必要があります。
そのためには、会社側があらかじめ組織としての目標を明確に定め、全社員に共有する必要があります。
▽ステップ②:目標を客観的に管理できるようにする
目標を作成した後は、その目標の進捗度合いに対して客観的な評価が下せるように「定量的か?」「具体的か?」という視点を入れてチェックできるようにします。
その際、社員のやる気を下げないために、チェック項目の「難易度は適切か?」「少し頑張れば実現できそうか?」という視点で設定すると、社員も諦めたり、手を抜いたりすることなく、意欲的に取り組めます。
▽ステップ③:上司が進捗を管理する
目標を定めて実行に移した後は、上司は一定期間ごとに部下の進捗を管理し、問題や計画のズレが発生していないかをチェックしましょう。
もし本人や会社の状況によって軌道修正が必要となった場合は、適宜そのサポートも行います。「目標を決めたから、後は評価まで待つ」では、上司の姿勢として不十分です。
▽ステップ④:適切に評価し、本人へフィードバックする
評価期間に入ると、上司は目標の達成度合いを評価し、本人へフィードバックを行います。
その際、評価内容を部下に納得させ、次のアクションを正しく取れるように、深い業務知識や評価理由の丁寧な説明が求められます。
伝え方次第で、部下のモチベーションは大きく変化するため、客観的かつ丁寧な説明を心掛けましょう。
MBOのメリット
MBOは現在、日本の大企業の約8割が導入していますが、なぜそこまで支持を集めているのか、導入のメリットを見ていきましょう。
▽人事評価が容易にできる
MBOでは目標設定時に達成基準を明確に決定するため、目標とその結果が明確にわかり、進捗度合いに応じた評価が容易にできます。
上司と社員がコミュニケーションを取りながら目標を設定するため、単純に上司から押し付けられたノルマをこなす場合と比べて、人事評価に対する社員の理解度も格段に上がります。
そのため、人事評価に対する不満やクレームが出づらくなる点も、MBOの導入するメリットの一つです。
▽会社と社員の目標や方向性を統一できる
MBOでは、会社や部門などの組織の目標に対して、社員が貢献できることを目標として設定します。
設定した目標は上司に報告して「会社の目標と合致しているか?」「社員の能力に見合っているか?」などがチェックされます。
もし適切な目標になっていない場合は見直しが行われ、最終的に問題がなければ承認されます。
このように組織の目標に基づいて、個人の目標を設定するため、会社と社員の目標や方向性を統一できるメリットがあります。
▽社員の能力開発や育成ができる
目標を設定する際は、現状の能力から少し高いレベルの目標を立てることになります。
目標達成のために、その「少し」の部分をどうするかを自分で考えることで創意工夫が生まれ、その繰り返しによって能力が高まり、社員の能力開発や育成に繋がるメリットがあります。
▽仕事へのモチベーションを上げられる
MBOで設定する社員個人の目標は、会社の目標ともリンクしているため、個人の目標を達成することで、会社に対する直接的な貢献となります。
その結果、会社や上司から称賛されて評価も上がるため、社員のモチベーションは大きく高まります。
さらにMBOでは、社員自らが目標を定めるため、一方的に押し付けられた目標と比べて仕事へのモチベーションを保ちやすくなるメリットもあります。
MBOのデメリット・注意点
MBOを正しく理解するためにも、導入におけるデメリットも見ていきます。
▽上司や管理職の負担が増えてしまう
MBOで設定する目標は、部下の能力や会社の方針に合わせて作成されます。
そのため、部下の数が多くなればなるほど、それを管理する上司や管理職の負担が増えてしまいます。
もし部下の能力を大きく超える目標や、反対に容易にクリアできる目標を設定してしまうと、部下のやる気を損ねてしまう危険性があるため、部下の目標を管理する側にプレッシャーがかかり、負担も大きくなってしまいます。
▽適正な評価ができないと、社員のモチベーションを下げてしまう
MBOでは社員によって目標が異なるため、評価の判断基準も一律ではありません。
そのため、評価する側に知識や正しい評価スキルがないと、適切な評価を下すことが難しくなります。
もし社員が納得できない評価を下してしまった場合、その社員のモチベーションを大きく低下させてしまいかねません。
社員を評価する上司や管理職は、成果を正しく評価するスキルや知識、適切にフィードバックできるスキルを習得するための教育や研修を行うことも重要となります。
▽目標から外れる業務はやらなくなってしまう
目標を設定することで、その目標を確実に達成するために、目標から外れた業務に手を付けなくなってしまうリスクが発生します。
そこで目標の達成以外の行動評価や業務への姿勢を評価基準に加えましょう。
こうすることで、「評価に影響しない業務はやらない」という消極的な姿勢の社員が生まれることをある程度防ぐことができます。
OKR(Objectives and Key Results)との違いは
MBOと似た概念として、OKRが存在します。
OKRとは「Objectives and Key Results」の略で、高い目標を達成するための目標管理法のことを指します。
インテルの元CEOであるアンドリュー・グローブによって提唱され、現在でもGoogleやメルカリなど多くの有名企業に採用されています。
MBOとOKRの違いは、「目標の進捗度合い」「スパン」「共有範囲」の3点です。
▽目標の進捗度合い
目標の進捗度合いについて、MBOと比較してOKRは100%の達成を前提としていません。MBOでは目標の進捗度合いがそのまま人事評価や給与と結びついているため、100%の達成が求められます。
しかしOKRでは目標の進捗度合いが給与の査定制度と結びついていないため、60〜70%の達成を目指す、よりチャレンジングな目標を設定することになります。
▽スパン(期間)
目標を振り返るスパンについて、MBOが1年ごとのスパンで振り返ることが多いのに対して、OKRでは1〜3ヶ月という短いスパンで振り返ります。
OKRは新規事業など先行きが不透明な事業の目標管理に適しており、MBOと比べて高頻度で目標の再設定や修正が求められます。
▽共有範囲
目標の共有範囲について、MBOでは社員と上司の間で共有されますが、OKRでは全社に公開し、共有されます。
OKRは共有範囲を広げることで、社員による企業への貢献度を明確に意識させる理由があります。
MEO(目標管理)はモチベーションを高め、業績も向上させる
MBO(目標管理)を活用することで、社員の能力やモチベーションを高め、社員一人一人の目標と会社の目標をリンクさせることで業績の向上が見込めます。
MBOでは社員自身が目標を定め、自主的に努力しながら達成に取り組むことで、社員自身の成長を促します。
MBOを提唱したピーター・F・ドラッカーも「自主性こそ重要」と述べています。
そのため、上からノルマや目標を押し付けるだけでは意味がなく、あくまで本人の「こうありたい」という姿を実現できるようにサポートする姿勢で運用していきましょう。
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では、最後までお読みいただき、ありがとうございました。