ソリューション営業
ソリューション営業とは、顧客の商品購入そのものではなく、顧客が抱えている課題や実現したい状態に焦点を当て、その解決につながる商品・サービスや方法を提案する営業アプローチです。
英語では「solution selling」などと呼ばれます。
営業担当者が自社の商品やサービスの特徴を一方的に説明するのではなく、顧客との対話を通じて、現在どのような問題があり、どのような状態を目指しているのかを理解し、その実現に役立つ解決策を提案していく点に特徴があります。
顧客自身がすでに認識している課題を扱うこともあれば、対話や分析を通じて、まだ十分に整理されていなかった問題やニーズが明確になる場合もあります。
そのため、「潜在ニーズを必ず発見する営業」というよりも、「顧客の課題や目的を起点として解決策を提案する営業」と捉える方が適切です。
ソリューション営業という考え方
「Solution Selling」という言葉は一般的な営業概念として使われる一方、Michael T. Bosworthによって体系化された営業方法論としても知られています。
Bosworthは1983年にSolution Sellingの営業研修事業を始め、1995年には『Solution Selling: Creating Buyers in Difficult Selling Markets』を出版しました。
そこでは、複雑で説明しにくい商品やサービス、販売までの期間が長い商材などについて、商品そのものを売り込むのではなく、顧客の問題や必要性を明確にし、その解決策として提案する営業プロセスが体系化されています。
現在では「ソリューション営業」という言葉は、特定の一つの方法論だけを指すのではなく、顧客の課題解決を中心に据えた営業活動を広く表す言葉としても使われています。
商品を売ることと、課題を解決することの違い
例えば、業務管理システムを販売している会社があるとします。
商品中心の営業では、
・どのような機能があるか
・価格はいくらか
・競合製品と何が違うか
といった商品の特徴を中心に説明することがあります。
一方、ソリューション営業では、まず顧客の状況を確認します。
「現在、どの業務に時間がかかっていますか」
「そのことでどのような問題が起きていますか」
「どのような状態になれば理想的ですか」
といった対話を通じて、顧客の課題を理解します。
その結果、顧客の本当の課題が「システムが古いこと」ではなく、「入力作業に時間がかかり、営業担当者が顧客対応に十分な時間を使えていないこと」だと分かる場合があります。
そこで、自社の商品を「新しいシステム」としてではなく、「入力作業を減らし、営業担当者が顧客対応に時間を使えるようにする解決策」として提案します。
「御用聞き営業」と単純に対立するものではない
ソリューション営業は、「御用聞き営業」と対比して説明されることがあります。
御用聞き営業とは一般に、顧客から要望を聞き、その要望に合う商品やサービスを提供する営業を指して使われることがあります。
例えば、顧客から、
「この商品を20個ください」
と言われ、それに対応する営業です。
一方、ソリューション営業では、
「なぜその商品が必要なのか」
「何を解決したいのか」
まで確認することがあります。
しかし、「従来型営業はすべて御用聞き営業であり、ソリューション営業より劣っている」という意味ではありません。
顧客の要望が明確で、迅速な対応が求められる場面では、顧客の依頼に正確に対応する営業が適切な場合もあります。
商材や顧客の状況によって、必要な営業方法は異なります。
顧客の課題は本人も明確に説明できるとは限らない
顧客が「こういう商品が欲しい」と話していても、それが本当の目的とは限りません。
例えば、顧客が、
「もっと安いシステムを探しています」
と言ったとします。
価格だけが問題だと考えて安い商品を提案すると、顧客の本当の課題を見落とす場合があります。
話を詳しく聞くと、
「現在のシステムは操作が複雑で、社員教育に多くの時間がかかる」
ことが問題なのかもしれません。
この場合、単純な価格の安さよりも、操作性や教育時間を含めた総コストの方が重要になります。
そのため、顧客が最初に口にした要望をそのまま最終ニーズと考えず、その背景を確認することが重要です。
ソリューション営業に必要なスキル
ソリューション営業では、商品知識だけでなく、顧客の状況を理解し、課題を整理し、適切な解決策を提案する能力が求められます。
代表的には、次のような力が重要になります。
・仮説構築力
・質問・傾聴力
・分析力
・提案力
・関係構築力
・案件を進める調整力
ただし、これらを「ソリューション営業に必要な正式な6要素」といった固定的な理論として捉える必要はありません。
顧客や商材、営業プロセスによって必要な能力は異なります。
仮説構築力
顧客に会う前に、顧客がどのような課題を抱えている可能性があるのか、一定の仮説を持っておくことは有効です。
例えば、顧客の業界、事業内容、会社規模、最近のニュースなどを調べ、
「人材不足が課題になっているのではないか」
「業務効率化が必要なのではないか」
「新規顧客獲得に苦戦しているのではないか」
といった仮説を立てます。
ただし、仮説はあくまで仮説です。
営業担当者が事前に考えた課題を「これが御社の問題ですよね」と決めつけると、顧客の実際の状況を見誤る可能性があります。
仮説は質問によって検証し、必要に応じて修正することが重要です。
質問・傾聴力
顧客の課題を理解するには、質問するだけでなく、相手の話を丁寧に聴く必要があります。
例えば、
「どのようなことで困っていますか」
「その問題はいつ頃から起きていますか」
「現在はどのように対応していますか」
「その状態が続くと、どのような影響がありますか」
「理想的には、どのような状態にしたいですか」
といった質問によって、問題を整理できます。
ただし、営業担当者が聞きたいことを次々に質問すると、顧客が尋問されているように感じる場合があります。
質問と質問の間で相手の話を受け止め、必要に応じて要約したり確認したりすることも重要です。
「顧客の真のニーズを引き出す」と断定しない
営業では、「顧客の真のニーズを引き出す」という表現がよく使われます。
しかし、営業担当者が質問をすれば、必ず顧客の本当のニーズを完全に把握できるわけではありません。
顧客自身も、自分が何を必要としているのか十分に整理できていない場合があります。
また、顧客の中でも、担当者、上司、経営者などによって重要視することが異なる場合があります。
そのため、「真のニーズを発見する」というよりも、対話を通じて顧客と一緒に課題や目的を整理していくという考え方が重要です。
分析力
顧客から聞いた内容をそのまま受け取るだけでなく、情報を整理し、何が重要な課題なのかを考える力も必要です。
例えば、顧客が次のような問題を話していたとします。
・残業が増えている
・社員が不足している
・ミスが増えている
・顧客対応が遅れている
これらを個別の問題として扱うのではなく、背景にある業務プロセスの非効率が共通原因になっている可能性があります。
このように、複数の情報の関係を整理することで、より本質的な課題が見えてくる場合があります。
提案力
課題を把握しても、自社の商品やサービスがその課題をどのように解決するのかを分かりやすく説明できなければ、提案にはつながりません。
例えば、
「当社のシステムにはAI機能があります」
と説明するだけでは、顧客にとっての価値が分からない場合があります。
そこで、
「このAI機能を使うことで、現在3時間かかっている集計作業を短縮できる可能性があります」
というように、顧客の課題と商品の機能を結びつけて説明します。
重要なのは、商品の特徴を伝えることではなく、その特徴が顧客にとってどのような意味を持つのかを示すことです。
ソリューション営業では、顧客に多くの質問をすればよいわけではありません。
顧客が安心して状況や悩みを話せる関係をつくり、「この人になら話してもよい」と感じてもらえることも重要です。
日本経営心理士協会では、顧客の話を引き出す質問、信頼関係の築き方、相手が何に価値を感じるのかを理解する方法など、顧客心理を営業や提案に活かす「経営心理学」を体系化し、「経営心理士講座」でお伝えしています。
2015年の開講以来、のべ10,000名以上の方が受講されています。
関係構築力
顧客から重要な情報を聞くためには、一定の信頼関係が必要になる場合があります。
例えば、顧客が、
「実は社内でこのプロジェクトに反対している人がいる」
「本当は予算がかなり厳しい」
といった情報を、初対面の営業担当者にすぐ話すとは限りません。
営業担当者が顧客の話を丁寧に聞き、約束を守り、必要な情報を提供するなど、日々の行動を通じて信頼を積み重ねることが重要です。
ただし、「接触回数を増やせば信頼が高まる」と単純に考えることには注意が必要です。
顧客にとって価値のない連絡を何度も行えば、かえって負担に感じられる場合があります。
案件を進める調整力
特に法人営業では、購入を判断する人が一人とは限りません。
現場担当者、部門責任者、経営者、情報システム部門、法務、購買担当者など、複数の人が関わる場合があります。
それぞれ重視することも異なります。
例えば、
現場担当者:使いやすさ
経営者:投資効果
情報システム部門:セキュリティ
購買担当者:価格
といった違いがあります。
そのため、一人の担当者から支持を得るだけでなく、意思決定に関わる人や条件を理解し、必要な情報を整理することも重要です。
「支援者」を見つければ必ず売れるわけではない
法人営業では、自社の商品やサービスの導入に前向きな人物が、社内で検討を進めるうえで重要な役割を果たすことがあります。
営業の世界では、こうした人物を「チャンピオン」「スポンサー」などと呼ぶ場合があります。
ただし、一人の支援者を見つければ成約できるわけではありません。
その人に最終的な決裁権がない場合もありますし、他部門の反対によって導入できない場合もあります。
そのため、誰が意思決定に関わっているのか、どのような評価基準があるのかを確認する必要があります。
顧客の課題に自社商品が合わない場合もある
ソリューション営業では、「顧客の課題を聞いたら、自社商品に結びつける」と考えがちです。
しかし、本当に顧客の課題解決を重視するなら、自社の商品が最適ではないと判断する場面もあります。
例えば、顧客の問題が業務プロセスそのものにあり、新しいシステムを導入しても改善しない可能性があります。
その場合、自社商品を無理に販売すると、導入後に顧客の期待を裏切り、長期的な信頼を失うことがあります。
顧客の課題と自社の解決能力が合っているかを見極めることも重要です。
ソリューション営業は万能ではない
すべての営業で、長時間のヒアリングや課題分析が必要とは限りません。
例えば、商品が標準化されており、顧客のニーズも明確で、購入単価が低い場合には、迅速で分かりやすい商品説明の方が顧客にとって便利な場合があります。
一方、高額商品、複雑なサービス、法人向けシステム、コンサルティングなどでは、顧客の課題を理解したうえで提案することが特に重要になる場合があります。
そのため、ソリューション営業は「すべての営業を置き換える唯一の正しい営業手法」ではありません。
顧客、商品、取引規模、意思決定プロセスなどに応じて活用することが重要です。
インターネット時代の営業
現在では、顧客自身がWebサイト、SNS、口コミ、比較サイトなどを使って多くの情報を収集できます。
そのため、営業担当者が商品の基本情報を説明するだけでは、十分な価値を提供できない場合があります。
一方で、情報が多いほど、顧客が、
「自社にはどれが必要なのか」
「何を基準に比較すればよいのか」
「どの課題から解決すべきなのか」
を判断しにくくなることもあります。
そこで営業担当者には、単なる情報提供者ではなく、顧客の状況を整理し、判断を支援する役割が求められる場合があります。
ヒアリングだけではソリューション営業にならない
ソリューション営業というと、「顧客にたくさん質問する営業」と理解されることがあります。
しかし、顧客から課題を聞くだけでは十分ではありません。
聞いた内容を整理し、
「何が最も重要な問題なのか」
「その問題がなぜ起きているのか」
「放置するとどのような影響があるのか」
「どのような状態を目指すのか」
「どの解決策が現実的なのか」
まで考える必要があります。
そのうえで、顧客が判断できるように解決策を提示することが重要です。
顧客の言うことをすべて受け入れることでもない
顧客主体の営業だからといって、顧客の言うことをすべてそのまま受け入れる必要はありません。
例えば、顧客が、
「とにかく営業人数を増やせば売上が上がる」
と考えていても、データを見ると営業人数ではなく成約率に問題があるかもしれません。
その場合、顧客の考えを尊重しながら、
「人数を増やす方法もありますが、現在の数字を見ると成約率にも改善余地がありそうです」
と異なる視点を提示することが、顧客の課題解決につながる場合があります。
顧客に合わせることと、顧客にとって必要なことを率直に伝えることの両方が重要です。
ソリューション営業で重要なのは「価値」を顧客と共有すること
顧客が商品を購入するのは、商品そのものを所有することだけが目的とは限りません。
その商品やサービスによって、何らかの望ましい変化を得ることを期待しています。
例えば、顧客が会計システムを購入する目的は、システムそのものを所有することではなく、
・経理作業を効率化する
・ミスを減らす
・経営数字を早く把握する
といった結果にあるかもしれません。
ソリューション営業では、この「顧客が得たい変化」を理解し、自社の商品やサービスがそこにどうつながるのかを考えることが重要です。
売り込む前に「なぜ必要なのか」を理解する
ソリューション営業から得られる重要な視点は、「どう売るか」を考える前に、「なぜ顧客がそれを必要とするのか」を理解することです。
同じ商品を提案しても、顧客によって価値を感じる部分は異なります。
ある顧客は「時間を減らせること」に価値を感じ、別の顧客は「売上を増やせること」に価値を感じるかもしれません。
さらに、顧客自身がその価値をまだ十分に言語化できていないこともあります。
そのため営業担当者には、商品の説明力だけではなく、相手の話を聴き、質問し、考えを整理し、相手が何に価値を感じているのかを理解する力が求められます。
日本経営心理士協会の「経営心理士講座」では、顧客の心を開く対話、質問によるニーズの整理、価値を感じる提案方法、信頼関係の築き方など、人間心理に基づいて営業成果を高める方法を学びます。
商品を一方的に売り込むのではなく、「この顧客にとって何が本当に価値になるのか」を理解し、納得できる解決策を提案できる営業を目指す方は、経営心理学の考え方も参考にしてみてください。

この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
早稲田大学卒業後、監査法人トーマツに入所。独立後、日本経営心理士協会を設立。
高い成果を残す経営者・ビジネスマンの共通点を心理学的に分析し、人間心理に基づく経営・ビジネスの手法を経営心理学として体系化。経営心理学を用いて1200件超の経営改善を行う。
その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行でも教鞭をとり、日経新聞やダイヤモンド、東洋経済にも掲載される。







