2021.9.20税理士が独立開業に失敗する6つの原因と対処法
この記事の執筆者
藤田 耕司(ふじた こうじ)
(社)日本経営心理士協会 代表理事/経営心理士、公認会計士、税理士
19歳から心理学を学び、1,200件超の経営指導の経験を基に成果を出す人の行動を心理学的に分析し、経営心理学として体系化。その内容を指導し、経営改善の成果を高める。
その手法を伝える経営心理士講座を開講。国内、海外からのべ4,000名超が受講。民間企業や金融庁でもその内容が導入される。日経新聞、日経ビジネス等、メディア取材も多数。
日本経営心理士協会代表の藤田です。
私は経営心理士として優れた経営者やビジネスパーソンの行動を心理学的に分析した結果を経営心理学として体系化し、経営のコンサルティングを行い、その内容を学ぶ経営心理士講座を主宰しています。
独立開業は税理士にとっての一つの大きな目標であり、自身の可能性が大きく開花する可能性を秘めたものでもあります。
顧問先を増やし、多くの従業員を採用し、事務所を拡大して、スケールの大きな人生を歩まれる方もいらっしゃいます。
ただ、税務の知識と経験を持って独立開業しても、継続的に十分な利益を出せるまでに事務所の経営を軌道に乗せることは簡単なことではありません。
独立開業して数年頑張った末に事務所を廃業する方もいらっしゃいます。
では、税理士が独立開業に失敗するケースとしてはどういったものがあるのでしょうか。
その主なケースとしては次の6つが挙げられます。
1.営業がうまくいかず仕事がとれない
2.税理士損害賠償請求により多額の賠償額が生じた
3.共同代表で意見が合わず、事務所が分裂した
4.顧客が自分につき、担当を下ろせない
5.無理な要望を受け入れ、利益率が悪くなった
6.離職率が高く、内部崩壊する
この6つについて、その詳細と対処法についてお話しします。
1.営業がうまくいかず仕事がとれない
独立開業において最も重要なのが仕事を受注し、収益を得るということです。
十分な収益が得られずに資金が底を尽きれば廃業せざるを得なくなってしまいます。
そのため、独立に欠かせないのが営業戦略です。
税理士としてどういった営業戦略を展開し、仕事を受注していけばいいのかについては、こちらの記事に詳細に書いていますので、ご覧いただければと思います。
「税理士・弁護士・社労士などの士業が独立開業に失敗する3つの原因と対処法」
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2.顧問先が自分につき、担当を下せない
独立開業当初は顧問先も少なく、すべて自分が担当できても、顧問先数が増えていくにつれ、自分の時間が足りなくなり、人を採用するようになります。
人を採用し、事業の規模を拡大していく上では次のステップを踏むことになります。
STEP①:顧問先の担当は自分が行い、作業の一部を部下に任せる
STEP②:顧問先の担当は自分が行い、作業のほぼすべてを部下に任せる
STEP③:顧問先の担当を部下が行い、自分は担当から外れる
ここでSTEP②からSTEP③へ移行できるかどうかが事業規模を拡大できるかどうかの鍵を握ります。
ただ、担当を任せられるほどに部下を育てることができていなければ、STEP③への移行は難しいでしょう。
あるいは顧問先から「あなたが担当してくれるから契約しているんだ。あなたが担当してくれないなら他の事務所に変えます」と言われる場合もSTEP③への移行は難しいといえます。
STEP③へ移行できず、自分が担当できる範囲でしか顧問先を増やせなくなり、売上が伸びなくなるのは、独立開業の一つの失敗パターンといえるでしょう。
そうならないようにするためには、担当を任せられる部下を育てることが必要になります。
ここで問われるのが人材育成力です。
事業規模を拡大できるかどうかは、多くの顧問先を獲得する営業力と、取ってきた仕事を担当してくれる人を育てる人材育成力の2つが両輪で機能するかどうかにかかっています。
実際、以下の事例にもあるように、その2つが両輪で機能する状況を作ることを意識して経営を進めた結果、多くの方が事業規模を拡大されています。
3.無理な要望を受け入れ、利益率が悪くなった
独立したばかりの頃は、早く顧問先を増やしたいという気持ちが強かったりします。
そのため、当初の価格よりも安く提案したり、過度な値下げ要求に応じたり、付随的な作業を引き受けたりしがちです。
また、顧問先に対してダメなものはダメと言えないと次のような状況に陥りがちです。
・顧問先の経理がずさんなため、記帳代行の報酬はもらっていないのに結果として記帳代行をやってしまう。
・資料提出の締切日を大幅に遅れ、申告期限の間際になって資料を提出され、深夜休日まで対応に追われる。
・事業計画書や資金繰り表など、税務申告に関係のない資料の作成を手伝わされる。
・税務に関係のない相談を次々にされ、その対応に追われる
そういったケースが増えてくると、働いても働いても十分な利益が出なくなっていきます。
その状況で3.のように担当を部下に下ろせなければ、限られた時間で顧問先を担当するしかなく、その限られた時間を十分に利益化することができなくなります。
そのため、独立直後は仕方ないとしても、ある程度顧問先ができたら無理な要望は受け入れないようにし、提供する時間を十分に利益化できる経営を目指すようにしましょう。
4.税理士損害賠償請求により多額の賠償額が生じた
税理士の申告ミスがあった場合、損害賠償責任が生じることがあります。
これは委任契約の受任者としての義務に違反したとして債務不履行に基づく損害賠償責任が発生する場合と、税理士としての注意義務に違反したとして不法行為に基づく損害賠償責任が発生する場合があります。
多額の税額が生じる場合は、損害賠償額も多額となり、これによって事務所の経営が立ち行かなくなるケースもあります。
また、税理士損害賠償保険もありますが、保険金が支払われるケースは限定的であり、税理士側にミスがある場合は保険金が支払われる可能性はかなり低いため、保険に入っていれば大丈夫という安易な考え方はしない方がいいいでしょう。
こういった事態を防ぐためには、次の手段が考えられます。
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1.事務所のチェック体制を構築する
税務申告書作成者以外の人がチェックすることで、ミスを未然に防ぐ体制を作ることがまずは基本になります。
但し、税務申告書のチェックができるレベルの人を雇うには多額の給与を払う必要があるため、開業当初は難しいかもしれません。
そのため、相互にチェックができるよう二人以上の税理士が共同代表となって独立開業するケースもあります。
ただ、共同代表での独立開業も注意が必要です。
詳細は、この後の項目をご参照ください。
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2.相談できる税理士の人脈を持つ
実務をやっていく中では様々な判断に迷うことが多々あります。
その際、インターネットや書籍では杓子定規な情報は得られたとしても、実務上のより突っ込んだ情報については手に入れるのが難しいものです。
そういった場合に相談できる税理士仲間がいることは非常に心強く、その相手が相談したいと内容と同じような事例を経験している場合は、実体験に基づく貴重な情報が手に入ります。
こういった相談ができる状況を作ることはミスを防ぐ上でかなり重要ですので、同業の税理士のネットワークを深め、いざという時に相談できる税理士が数人いるようにしておきましょう。
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3.リスクの高いクライアントは受けない
税額が多額になる可能性があるクライアントや、難しい判断が必要になるクライアントを受けるかどうかは、経営者として難しい判断となります。
独立間もない頃は少しでも多くの売上が欲しいところですので、こういったクライアントでも受けたくなるところですが、万が一の時のリスクもよく考慮した上で、受けるかどうかの判断をしましょう。
5.共同代表で意見が合わず、事務所が分裂した
独立開業は大きな不安を伴うものです。
そのため、一人で独立開業するのは心細いことから知り合いの税理士と一緒に共同代表で事務所を設立する人もいます。
ただ、事務所の経営を行う上では様々な判断が求められます。
それらの判断を行う上で逐一相手の了解を得ながら進めることはかなりストレスのかかることです。
その過程で考えが合わないことが続くと、お互いに距離が生まれていきます。
そのため、共同代表同士の仲が悪い、あるいは途中で事務所が分裂したというケースは多いです。
こういった事態を防ぐために効果的な方法としては、①将来の方向性を確認すること、②役割分担を決めることがあります。
事務所の運営における個々の判断では意見が合わなかったとしても、最終的に向かいたい方向は同じであることがお互いに確認できれば、敵対心はやわらぎ、お互いに譲歩しやすくなります。
その上で、すべての判断において二人の意見を合わせることは難しいため、業務内容ごとに判断の役割分担を決め、重要な判断のみ両方の了解を得ることが必要とする。
こうすることで、先ほどのストレスは緩和され、円滑な事務所運営ができるようになるでしょう。
一体感のある組織を作る方法と実際の事例はこちら
https://keiei-shinri.or.jp/applyinfo/course/soshiki-b/
6.離職率が高く、内部崩壊した
顧問先が増えていくと、それに応じて人手が足りなくなっていきます。
そこで人を雇うことになりますが、離職率が高いと指導してもすぐに辞められるため、また新たに採用して1から指導するということが繰り返され、業務効率は大幅に悪くなります。
また、一時期に職員が一斉に辞めたりすると現場が途端に回らなくなり、所長がすべて一人で対応しようとした結果、体調を崩して休業という事務所もありました。
場合によっては有資格者の職員が他の職員を引き連れて独立開業するというケースもあります。
これによって組織は内部崩壊していきます。
これも独立開業の失敗といえるでしょう。
この点についての対処法については次の記事に詳細に解説していますので、ご覧いただければと思います。
「税理士・弁護士・社労士などの士業が独立開業に失敗する3つの原因と対処法」
以上、税理士が独立開業に失敗する6つの原因と対処法についてお話してきました。
独立開業して事業が軌道に乗ると、大きな可能性を手に入れることができます。
今回お話しした失敗を回避し、ぜひ独立の夢を実現させて下さい。
日本経営心理士協会では士業の方の独立開業を応援しています。
当協会では1,000件超のコンサルティング事例と心理学に基づいて、経営者として求められる知識とノウハウを解説する経営心理士講座を開催しています。
この講座は多くの独立を目指す税理士の方が受講されており、その成果の高さが認められ、金融庁や日本銀行、税理士会の研修でもこの講座の内容が導入されています。
また、経営心理士講座の説明会である体験講座「経営心理学を用いると人材と業績はこう変わる」を毎月開催しております。
体験講座では70枚超のパワーポイント資料をお渡しし、経営心理学のポイントをダイジェストでお伝えします。
「体験講座でここまで教えてもらえると思わなかった」「体験講座なのに充実の内容に驚いた」といったご感想をいただいております。
独立開業に必要な力をいかに磨いていくかについてもお伝えしていますので、ご興味がございましたらぜひご参加いただければと思います。
体験講座「経営心理学を用いると人材と業績はこう変わる」の詳細はこちら
https://keiei-shinri.or.jp/open-seminar-management/
では、最後までお読みいただき、ありがとうございました。